最終話 終結へのエスペラール

日が沈みかけた夕刻にヴィルシーナ学園の治療センターに戻ってきたルナはマツ博士から渡されたデータチップをタキに渡した。

タキはすぐにデータチップの解析を始めた。

データチップには太陽帝国の情報、最期の開発と思わしきもののデータがあった。開発のデータはタキでないと内容の把握は出来ないだろう。

データチップをタキに預けてルナ達は一休みすることにした。

借りている治療室にアレクスがルナを連れて足を踏み入れ、帰ってきたルナ達をロザリアが出迎えた。

 

ロザリア「お帰りなさい、皆」


ロザリアは柔らかな微笑みと共に両手を広げた。

それを目にしたルナは目から大粒の涙を溢れさせ、ロザリアの腕の中に飛び込む。ロザリアはルナの身体を抱き締めてやる。

ルナの様子からしてロザリアは事の結末をおおよそ理解した。

震え、泣くルナの頭を撫でてやりロザリアはアレクス達を見る。アレクスはロザリアの視線だけで言いたいことを大体理解し、アサギとレオを連れて治療室から出ていった。

治療室を出たアサギはアレクスを見た。

何故、自分達がいてはいけないのか。それをアレクスに聞こうとしたがその前にレオが答えた。


レオ「僕たちがいたら、ルナ本気で泣けないんだよ」


ルナ(ナイ)にとってロザリアはもう一人の親のようなものだ。レオはそう言って、笑う。

アレクスはため息を吐く。


アレクス「こればっかりは俺ではダメらしいな」


アレクスの吐いた言葉にレオは「自業自得」だと苦笑した。

過去に何かあったのか、とアサギは思ったがアレクスの不機嫌そうな表情を見てあまり深く聞かない方がいいと判断した。

そういえば、とアレクスはアサギを見た。


アレクス「アサギ、お前はこれからどうするんだ」


アレクスに言われ、アサギはきょとんと目を丸くし、首を横に傾けた。



アサギ「え?」


これから、とアレクスに言われてアサギは数秒間考えた。

そして気づいた。アレクスの言わんとしているのは故郷に戻るかどうかだろう。

アサギはどうするか自分の中で決め、己では解決していたことの為か意識には無かった。


アサギ「…私は決めてますよ」


これからの事。

言って、アサギは花のような微笑みを浮かべた。

月の一族の王家の証である銀色の髪を風に靡かせて、エルトレスは治療センターの一階、中庭で風にあたっていた。

王剣発動時に今まで抑えていた本来の姿に戻った。

後髪は膝に届く程伸びて、身長も少し伸び小柄な少女とは言えなくなったのだ。エルトレスは空いているの治療室の窓ガラスを外から見る。

ガラスにうっすらと映る自分の姿を見てエルトレスは思い出す。

…普通の少女でいたいと願ったかつての望み。

エルトレスはため息を吐いて苦笑した。


エルトレス「ごめんね、イシュテルナ」


君は僕の望みに気づいていた。だから、僕の記憶を封印したんだ。

けれど、エルトレスは記憶を取り戻した。

戦うため、今度こそ守るために。

エルトレスは目を瞑る。


エルトレス「さようなら、もう一人の私…」


キリヤに淡い想いを抱き、彼と結ばれる事を夢見た少女はこの日を最期にしよう。エルトレスは涙を流す。

殺した少女(エルトレス)の最期の涙だろう。

目を開けてエルトレスは心に思う。これから行く道は愚かなる王の、英雄になれなかった王の償いの道だ。


???「陛下…」


ソウマと同じエメラルドグリーンの瞳の美人がエルトレスの背中に向かって声をかけてきた。

気配はとっくに掴んでいたエルトレスだが、慣れた気配故に放っていた。エルトレスは零れる涙を拭わずに振り返って美人を見る。


エルトレス「どうかした?」


エルトレスは泣き笑う。

金色の瞳は揺れ動く。それがエルトレスの本当の心の内側のようで彼は歩み寄ってエルトレスの身体を抱き締めた。

…彼は長くこの人に従ってきた。

エルトレスがかつてイシュテルナに求めたものを知っている。それが叶わなかったことも…。

抱き締められたエルトレスは目を閉じる。


エルトレス「私は、幸せなのかもね」


だって、まだ守れる人達がいる。

エルトレスは自分のした結果故に今、苦しむ人達を少しでも救えるのだ。

そう考えた時、皆という希望があることが幸せだと感じた。

半分瞼を上げてエルトレスは空を見つめる。日が沈み、暗くなっていく。月がぼんやりと浮かび始める時間だ。


???「やめてよ、エルトレス…。君はもう自分を責めないで」


彼は哀しい、と思う。現世に再び目覚めてここにいるのにエルトレスはまだ過去から離れられていない。

…後悔した。自分達が出逢わなければエルトレスは明るい笑顔でエルヴァンス家でメイドをやっていた筈だ。

王の帰還を一度は喜んだ。けれど、記憶を取り戻したエルトレスは過去から逃れられない。責任感の権化みたいな性格だから、エルトレスは背負い続けるだろう。

未来を見ず、過去を見続けたまま。

彼の抱える胸中にエルトレスはとっくに気づいていた。

唇を笑みの形にし、エルトレスは彼に告げる。


エルトレス「何も知らないでいる事より、全部思い出して償える道がまだあるなら何度だって後者を選ぶ。だから、お前が苦しむことも、後悔する必要も無い」


彼の背中を慰めるようにエルトレスは軽く叩いてやる。

…何度記憶を忘れても、きっと自分の選択は変わらない。幼いキリヤが連れ去られた時、エルトレスはキリヤを守ろうとして一緒に連れ去られた事があった。

その時、助けてくれたのがロザリアだったことを思い出した。エルトレスはキリヤの危機とロザリアとの出逢いで記憶を取り戻したことがあった。

ロザリアに記憶を封印されたが、それでも思い出すのだ。

そう仕向けたのは間違いなくアステルナ自身だが…。


エルトレス「いつか、お前がウィルの死を越えて新しい未来を築く時、私は自分を誇れるようになると思う」


???「なら、その時には君も生きて幸せになって…!」


彼の悲痛な叫びのような言葉にエルトレスは哀しい微笑みを浮かべ、彼の言葉に応えはしなかった。

…応えられなかった。


エルトレス(いいや、私の役割を果たしたらそこで終わりだよ)


エルトレスは胸の内に秘め、思う。

もう、幸せはいらない。

終わりが来るその時まで守り、戦い続けるのみ。それが、エルトレスの出きる償い。

否、皆を守り抜いたその時こそ、エルトレスの幸福になる。

エルトレスは内に想いを秘めて隠したまま、彼の頭を撫でた。

泣きじゃくっていたルナを連れてロザリアはアレクスとアサギの待つ治療センターの待合室にルナを送って行った帰りに、ロザリアは壁によって死角となった影に隠れてエルトレスと彼の会話を聞いていた。


ロザリア(…………)


エルトレスの抱えるものはロザリアにも、彼にも、計れるものでは無い事は当たり前だ。何度、記憶を封印してもエルトレスはそれを望まなかった。

…エルトレスは自分を呪っているようにも見える。本人は呪いからの解放を望んでいないのは見てとれる。

だが、とロザリアは思う。


ロザリア(違うよ、エルトレス。それは君の責任じゃない、あの時に止められなかった私の責任)


そして、責任を果たすのはエルトレスでは無い。

彼を守り抜けなかった自分の…、ロザリアは己の胸に手を当てて目を閉じた。

赤く目の下を腫らしたルナは外で風に当たっていた。

医療センターは広く、屋上から見ても治療センターの規模と造りは都市の病院と同等。

空はすっかり夜に沈み、月が浮かんでいる。

ルナの心の中にはフリージアとマツ博士の事があった。


ルナ「…私は、何かしてあげられたのかな」


もっと、何か出来たのでは無いか。

ルナは屋上を囲う、透明な壁に手をつき瞼を閉じる。目尻から涙が零れる。

何か出来たのかも知れない。何かしてあげられたのかも知れない。

その想いの答えを先ほどロザリアに聞いた時に、ロザリアはルナの頭を撫でて言った。

 

「フリージアとマツ博士はルナに想いを託していたわ」

 

二人のフリージア、マツ博士。

ルナは夜空に浮かぶ、満月を見る。三人の想い、それはきっと…。


アサギ「ルナ様、冷えますよ」


三人のことを考えていたルナの背後からアサギは声をかけて、ルナの肩に自分の制服の上着をかけた。

アサギの声にルナは閉じていた目を開けて、振り返る。

金色のルナの目に微笑むアサギが映った。

アサギには沢山のことを隠していた。それを思い出してルナは気まずさからアサギから顔を逸らす。

謝らなければいけないのに、ルナの口からアサギにかけなければいけない言葉が何も出てこなかった。


ルナ「…………っ」


ルナの心の中は沢山の想いで一杯、濡れた金色の瞳から溢れる涙が頬を伝う。

アサギに謝らなければいけないのに、とルナは強く目を制服の袖で拭うも涙は止まらない。

次々と零れるルナの涙を見てアサギは愛しいと目を細めて、ルナを後ろから抱き締めた。


アサギ「ルナ様、聞いて頂きたいお話があります」


アサギの言葉にルナは思い出した。

…アサギとの約束を。

それが今なのだとルナは目を強く瞑った。今回の件で状況は一気に進んだ。

東大陸のスメラギ国の重要な家に生まれたアサギとの別離の時も近づいているということ。

ルナは懸命に自分の感情を殺す。

別れを惜しんではならない。アサギの未来を考えれば尚更…。

感情を押し殺して、ルナは声を振り絞る。


ルナ「…はい、アサギさん」


振り絞った声が震えていた。

ルナは振り返ってアサギを見れず、目を閉じ続ける。


アサギ「…私は、家を捨てます」


アサギの口から出たのは信じられない言葉だった。

ルナは驚き、アサギの腕の中で身を捩って振り返る。金色の瞳にアサギを映し、けれどルナは言葉を紡げなかった。


アサギ「…ずっと、考えていました。人形のように敷かれた道を意思も無く歩くよりも、自分で選んだルナ様と同じ道を歩いている方が幸せなのです」


ローゼ村で初めて任務を組んだ時からアサギの中でナイの存在は他とは違った。歳が近く感じたからかも知れない。

不安そうなのに、しっかり前を向くナイともっと一緒にいたいと思うようになって…。傍で手を繋ぎ、守りたいと強く願うように。

アサギは両腕でルナを抱き締めていたが、片手を離し自分の口元に手首を近づける。アサギは強く、自分の手首を噛んだ。

皮膚と肉が己の歯で破った痛み、口内に自分の血を味がする。

アサギのしようとしている事に気づいたルナはアサギを止めようと口を開けた。

声は言葉となる前にアサギの唇に塞がれた。


ルナ「……っ!」


ルナの口内に温かな血と甘い味が広がる。

吸血鬼(ブラッディロード)に血を渡すことがどういう意味なのか知らないアサギでは無い筈だ。

ルナはアサギの未来を考えるなら、想いを拒絶しなければいけないのに。

…出来なかった。


数分間、重ねていた唇を互いに離しアサギは両腕でルナの身体を抱き締めたままだった。

ルナは顔を俯かせ、小さな声で話を始めた。


ルナ「月の一族の者は男女それぞれの姿を持って産まれる者がいます。私も、男の姿と女の姿を持って生まれました」


小さな頃、そんな能力を持つ自分が怖かった。幼少時は制御出来なくて、精神が不安定になるとどちらかの姿になってしまい、結局自分はどちらなのか悩んだりもした。

知られたら、気味悪がる人だっている。だから、アサギに言えなかった。

初めてルナの姿で会った時も「自分がナイ」だとは言えず。


アサギ「…話をして下さり、ありがとうございます」


アサギは安堵した。

ルナ(ナイ)の事が知りたいと思っていたから。アサギは顔を上げて、夜空に浮かぶ満月を見つめる。

ルナ(ナイ)のような暖かな光を月に感じた。


アサギ「ルナ様、今宵の月はとても綺麗ですね」


ルナ「アサギさん、」


今の世は月に関しての事は口にしてはいけない。

ルナは首を横に振り、アサギを止める。

だが、アサギは悪戯な微笑みを浮かべた。


アサギ「誰も聞いてませんよ…」


アサギは目を細める。

もう一度、ルナと口づけしようと顔を近づけたが、


アレクス「おい、調子に乗んな」


ルナ(ナイ)専用の身辺警護の登場でそれは叶わなかった。

ルナから渡された治療センターの使っていない小さな部屋を借りてタキは解析に没頭していた。空間表示させた画面とにらめっこし、かれこれ数時間。

こういう作業をタキは好きだ。昔、一人前の巫女となり月の王に生涯尽くす為に半ば幽閉され修行に身を費やしていた頃、窓から見える空ばかり見ていた。

外に出ることもあの頃の自分は考えたこともない。それに、月の王に尽くす勉強以外は許されなかった。

ロザリオに引っ張り出されるまでは…。


タキ「ふう…」


仕込まれた暗号を解き、よくやく一つのデータを見つけた。

小さなデータチップにどれ程の情報が組み込まれているのかは解らないが、一つ目はマツ博士が調べた太陽帝国の情報が載っていた。

太陽帝国の実験で家族を失った彼は真実を知らずに太陽帝国に利用されていた。

マツ博士の手記を見ていた時に引っ掛かる情報があった。

黒い外套に身を包んだ男がマツ博士の研究の手助けをし、太陽帝国との橋渡しをしていたこと。

マツ博士は男が「黒幕に近い」と記述を残している。

タキは一度、休憩しようと息を吐いて飲み物を取りに行こうと画面を消そうとした。

だが、タキの前に置かれたテーブルに誰かがコーヒーカップを置いた。


ソーレ「…マツ博士はかつて生体と病を研究していた優れた研究者だった」


タキの背後に立ってソーレはコーヒーカップの取っ手を持ち、マツ博士の事を話した。

エルヴァンス家、次期当主といわれるソーレはかなり有名でタキも知っている人物だ。言葉を交わすのは初めてだが。


ソーレ「太陽帝国の対策は俺の仕事の一つだ。太陽帝国の抱える危険な科学者をある程度リストアップしていた。その中にマツ博士を入れた事もある」


ソーレの話を聞き、タキはコーヒーカップの取っ手に指をかける。

真実を知る前まで、家族を失ったマツ博士は太陽帝国に身を寄せていたらしい。魔界の欠片の研究の為に彼は太陽帝国に利用されていたのだろう。

タキはソーレの持ってきたコーヒーカップに注がれたコーヒーを飲む。

上品な薫りのコーヒーが気分を落ち着かせてくれた。


ソーレ「マツ博士を危険視したのは魔界の欠片の兵器化だ。彼の研究は危険領域に達しており、他の国からも抹殺命令が出始めていた頃に彼は真実を知った」


あともう少しで魔界の欠片の兵器化は実現する。太陽帝国にいたマツ博士は娘を取り戻す為に冥界への研究にも着手しようとしていた。

その頃にマツ博士は家族を失った原因が研究の支援をしてくれていた太陽帝国だと知り、太陽帝国から逃亡した。

勿論、太陽帝国にもマツ博士を危険視した国からの追手にも命を狙われる事になる。


タキ「どこで彼は真実を知ったのだろうね…」


タキが口にした疑問をソーレは答えた。


ソーレ「恐らく、極秘事項の太陽石とイオ皇子の兵器化実験を目にしたからだと思われる」


ソーレの言葉にタキは目を細め、鋭い眼差しをした。

月の一族の深層部に関わっていたタキには解る。石とその使い手を兵器化するなど無謀な話だ。

太陽帝国は現在、第二皇子イオを兵器化する為に石との同調率を上げようと画策しているのだろう。

媒介を利用して使い手に石を使わせる。ほぼ使い手を洗脳して、石を使わせるつもりだろうが石は使い手の確固たる意志と意識が無ければまともな発動はしない様にセキュリティがかけられている。


ソーレ「…ヴィルシーナとエルヴァンスがどういう立場になるかは解らない。けれど、俺はお前たちと同じく太陽帝国を止める使命がある」


ソーレは言い、手にしていたコーヒーカップに注がれたコーヒーを飲む。

タキはソーレを見た。ブラッディロードの証とされるソーレの真紅の瞳。

エルヴァンス家としてでなく、ソーレ個人として彼は太陽帝国を止めようとしている。その意志を感じてタキは思う。

…そうまでする理由がソーレのどこにあるのか。


タキ「ソーレ、君は何故」


…太陽帝国を止めるんだい?

その疑問を口にしたところでソーレは疑問に答えるのだろうか。

タキはソーレの真紅の瞳を再び、見つめた。

銀色の長い髪が風に揺れる。夜風に当たりに来ていたロザリオは誰もいない、治療センターの一階中央の庭園で満月を見ていた。


ソウマ「…ロザリオ、」


広い庭園の中に佇み、上を見上げるロザリオを目にしたソウマはロザリオの名前を呼び駆け寄った。

ソウマはロザリオの手を握る。


ロザリオ「どうした、眠れないのか?」


ロザリオはソウマを見下ろして微笑む。

ソウマは見上げ、ロザリオの金色の瞳を見つめた。


ソウマ「君の恋人ってどんな人だった?」


ソウマの突然の質問にロザリオは驚き、噎せた。

…ソウマが言っているのはミトラスのことだろう。恋人と呼んで良いのか解らないが、確かに彼を想っていた。

ロザリオは記憶の中のミトラスの姿を思い出す。

太陽皇帝に相応しい、光を持つ人だった。性格はかなりひん曲がっていたが。


ロザリオ「…昔の俺は周囲に死を望まれていた。そんなこんなでミトラスが初めてだった、生きろと言ってくれて生きる術を教えてくれたのは…」


生きてはいけない。ディアナが生きていれば、国は戦乱に呑まれる。

王女でありながら、ディアナを守るものはいなかった。防衛手段も学んではいけなかった。

そんなディアナに身を守る術を教えてくれたのはミトラスで、彼はディアナという存在を望んでくれた。

ロザリオの話を聞いたソウマはエメラルドグリーンの瞳を揺らす。

…敵わないだろうな、とソウマは感じた。ミトラスはロザリアの心の光。

けれども、とソウマはロザリオの頬を撫でた。


ソウマ「俺もロザリオと、…ロザリアと一緒に生きたい」


ロザリオ「…ありがとう、ソウマ」


ソウマは優しい微笑みを浮かべた。


中央の庭園で距離近く会話するソウマとロザリオを、通りかかって目撃したエルトレスとアイオは揃ってため息を吐いた。


エルトレス「僕としては嬉しい場面だけど…、ちょっと刺激が強い雰囲気だよねえ」


エルトレスは言って、顔を緩ませた。

それを横目にアイオは呆れ、じとりとした目をエルトレスに向ける。

アイオの視線に気づいたエルトレスは苦笑した。


エルトレス「ご、ごめんね!アイオ君」


エルトレスは慌ててアイオに謝罪した。エーデルシュタインは見目麗しい者が多い。キリヤもそうだが、同性からも好意を寄せられるのだ。

この手の話はエーデルシュタインの多くが地雷だ。

エルトレスは「やっちゃった」と内心、ドキドキしたがアイオは常と変わらない口調で言う。


アイオ「ロザリオは同性から好意を寄せられそうだな」


…意外にも平気だったらしい。

エルトレスは胸中、安堵しロザリオを見た。確かに、身長もそれなりに高いしスタイルも整ってる。どことなく男らしい雰囲気で、男女関係なくモテそうではある。


エルトレス「確かに!格好いいもんね!」


エルトレスがはしゃぎ出した時、会話が丸聞こえだったロザリオが苦笑した。


ロザリオ「昔、物凄くモテてた人に言われてもな」


ロザリオの呟きにソウマは首を傾げる。

昔、アステルナは度々社交場から逃亡していたぐらい、モテていたらしい。嫁候補と愛人候補が山といたようだが、当のアステルナは色事よりも己を鍛える事に夢中だったらしいが。


エルトレス「モテテナイヨ!?」


ロザリオの暴露にエルトレスは顔を真っ赤にして片言な口調で否定した。

二人の言葉を聞いていたソウマとアイオは同じことを考えた。


アイオ(モテてたな)


ソウマ(モテてたんだね)


エルトレスは過去を言われて顔を真っ赤にしながら、ロザリオに聞く。


エルトレス「もぉ~!そ、それよりロザリオ、これからどうするの?」


考えなければならないことが山ほどある。

だが、今の最終地点は決まっているとロザリオは夜空に浮かぶ満月を一瞥したあと、エルトレスの方へと向いた。


ロザリオ「…千年戦争の決着をつける」


フリージアとマツ博士はナイ(ルナ)に託した想い。それはロザリオが千年戦争で命を落とした者達に誓った想いと同じだった。

…闇の連鎖から、戦いで落とした命達を解放する。それがロザリオの中にあり続けた想いだ。

ロザリオは拳を握り締めた。

⚫⚫

…時は同じ、けれど違う場所にいた銀色の髪の青年は夜空に浮かぶ満月を見ていた。夜風に吹かれた銀色の髪、満月を移す金色の瞳。

白い花びらが夜風に吹かれて彼方に舞う。

青年は同じ空の下にいるであろう同族達を想った。

彼らに月の加護があるように…。

青年は祈った。

遠い過去、長い戦いの中で聞いた誰かの最期の言葉を思い出す。

「違う、望んで無かった」

血にまみれ、命の灯火が消えかかっていた誰かの苦しみに満ちた最期の言葉。それをあの人も聞いたのだろう。

酷な運命を歩こうとも、あの人は誓いのままに進む。

青年は目を閉じた。


???「未来はきっと繋がれる」


青年は呟き、歩みだす。

無数の白い花びらが宙を舞い踊って、どこかへと旅立つ。

遠い場所にいる彼らのもとへと辿り着くようにと青年は願った。

アレクスとアサギと一緒に、ヴィルシーナ学園の治療センター屋上にいたルナは風に運ばれてきた白い花びらを手に握った。

手のひらに乗った白い花びらはルナの手のひらの中で光の粒子となる。その光がどこか懐かしい、とルナは首を傾げた。


ルナ「?」


白い花びらは月の一族の王家の者の魔力が形となって現れる事がある。

誰の魔力だろうか、とルナは不思議に思うも答えは出なかった。

 

season1   完