第13話 今日も学生生活は楽しい

東大陸から学園に帰ってきた一行は各々の部屋へと戻り、旅の疲れを癒した。

アサギの刀も修理が終わっていたらしく、学園に届けられておりアサギは嬉しそうな笑顔と共に早速、刀を手入れしていた。

オーナーのみかんが「今回、失敗したから罰として三日間の謹慎!」と特に怒った様子も見せずに帰還した面々に言った。

謹慎というより休みなのだろう。

桜華という国際的ユニットが解散したというのに…。

コウは「まあ、俺に元から休みなんてねえけどな」と口は笑っている形はしていたが目は死んでいたのをアサギは思い出した。

…委員長業務、大変なんですね。

アサギは自分の部屋で刀を手入れしながら東大陸と帰ってきてからの事を思い出していた。

とある学園の食堂は広い。

マンモス学校よりは狭いがそれでもかなり広めだ。

内装は白と青で爽やかな色をしている。床は大理石を使っているとか。

置いてあるテーブルと椅子もかなりお洒落だ。食堂は外のテラスへの入り口も有り、テラスでは美しい庭園を楽しみながら食事ができるようになっている。

食堂は基本、夜間も開いている。

と、いうよりこの学園の施設はどの時間も開いている。

任務の時間が様々でたまに夜間でも活動している者がいるからだ。


コウ「ねむっ…」


深夜の食堂で通信画面と書類を交互に見ながら作業をしていたコウは欠伸と共に呟く。

テーブルには書類とホットコーヒーを淹れたカップが白い湯気を宙に遊ばせている。


クラウン「遅くまでご苦労じゃなあ、コウ」


委員長業務をするコウとテーブルを挟み、向かい合う形で椅子を引き腰をかけた金の髪の男が笑う。

クラウン・イクリール。3-1の委員長、オーナーの学園運営を手助けしている人物だ。

見た目は美しく、20代前半と思われる外見をしているが年齢は一体幾つなのか数えるのも恐ろしいほどの長命。


コウ「東大陸への渡航についての報告処理やら何やら色々と。てか、珍しいですね。夜はいつも寝てるでしょう?」


…ジジイは夜起きていられないとか昔、言ってた気がする。

コウの言葉にクラウンは持っていた扇子を広げて口元を隠し、実に残念といわんばかりに眉を下げる。


クラウン「ふむ、アレクス君を深夜の茶会に誘ったらトレーニングルームから追い出されてな」


コウ「そりゃあ、無理でしょうね…」


あのアレクスが他人のために時間割くようには見えない。例外があるとすればロザリとナイに関してだろう。

アレクスと同郷な上に幼馴染みですら「連絡取れない」と嘆いてるぐらいだ。

コウに言われてクラウンは「そうかのう」と残念な言い方をしているが表情は至極楽しそうである。


コウ「楽しそうですね」


今のクラウンの表情を見てコウの素直な感想を述べる。

クラウンはコウの言葉に頷く。


クラウン「そうじゃなあ。あやつが望み続けた願いだが、確かに楽しいと思ってのう」


クラウンはしみじみと話す。


クラウン「誰かに怒られる事も、こうして深夜に会話する事も、昔を語らう事も。こんなに楽しくて満ち足りたものだとは思わなんだ」


話しを聞くコウは思う。

クラウンの過去に一体、何があったのかは解らない。自分以上に過去から生きているクラウンが何を想い、言葉にしているのか。

コウには解らない。

けれど、


コウ「…クラウン、後ろでアレクスが腕組んでますよ」


コウは笑みを浮かべてクラウンの後ろを視線で示す。

クラウンの背後で腕を組んだアレクスがトレーニング後のシャワー上がりか濡れた髪をそのままに立っていた。

コウに言われたクラウンは目を大きく開いて、後ろに振り返る。 


クラウン「アレクス君…」


クラウンはどこか唖然と、アレクスの名前を呟く。


アレクス「気が向いたから来ただけだ」


クラウンの視線から逃れるようにアレクスはそっぽ向く。

アレクスのその反応にコウは「ツンデレかよ」とツッコミを入れたくなったがめんどうなので胸中に留めた。

クラウンはそれでも嬉しいのかアレクスに柔らかな笑顔を浮かべる。

…アレクスはああみえて優しいし、仲間思いだから。

そう言った誰かの言葉を思い出してコウは、言う通りだなと納得した。


コウ「こんな夜中に気が向いたらって…」


別にからかうつもりは毛頭なく、何気なく声にしたコウの言葉にアレクスは鋭い眼差しでコウを見て舌打ちした。


アレクス「あ?」


コウ「な、ナンデモナイヨ?!」


アレクスの反応にコウは慌てて手を振った。

残念なことにコウの実力ではアレクスには敵わない。「表でろ」とか言われたらボコボコにされる未来しかコウには見えない。

…しかし、アレクスはこれでもかなり気の長い人物だ。

今も怒ってはいるが本気ではないのはコウもよく解っている。

コウの理解通りアレクスはすぐに怒りを引っ込め、テーブルに広げられた書類を指指して、「ああ、そうだコウ」と話題を変えて来た。


アレクス「ソウマとアサギの歓迎会の日程まだか?何時にするのか、ってイーグルから言われてんだよ」


アレクスの言葉にクラウンも反応する。


クラウン「そうじゃ、そうじゃ。日程組まぬと任務が組めぬのじゃ」


二人に要求され、コウは頬を指の爪で掻いて頷く。


コウ「すっかり忘れてたわ」


半笑いだが目が全く笑っていないコウに二人は呆れとともにため息を深く吐いた。


アレクス「…お前、手が回らないなら補佐作ったらどうだ?」


クラウン「アレクス君の言う通りじゃ、タキに補佐を任せばよかろうに」


アレクスの呆れ気味の言葉の後のクラウンの提案にコウは「そうなんだけどな」と悩んだ。

確かにクラウンの言う通り、タキは優秀で書類作業も難なくこなせるだろう。

ただ、


コウ「誰かに分担して意思疎通するなら独りでやった方が気分的に楽なんだよなあ」


コウの発言に二人の反応は様々だった。

クラウンは「それでも独りよりは楽じゃろう」と言い。アレクスは「あれ、お前そんなにコミュ障だったか?」と首を傾げていた。

…コミュ障では無い、と自分では思うんだが。

コウは自身をそう評価できるのだが、他人の目から見たらまた違うよなあ、とか考えていた。


深夜、トレーニングルームを覗いたら案の定アレクスがいたので付き合って相手をしてたロザリオはトレーニング後のシャワーを浴び食堂を覗いてみた。

食堂の中央辺りの食事スペースにいる三人に「ああ、やっぱり起きてる」と呆れながらもロザリオは食堂に足を踏み入れる。


ロザリオ「まだ起きてたのか」


ロザリオが声をかければテーブルを挟んで、向かい合って席についてるクラウンとコウがロザリオの方を見て来た。

クラウンの傍に立つアレクスが手を挙げた。


アレクス「なんだ、ロザリオこそ寝るんじゃないのか?」


アレクスに言われたロザリオは三人がいるテーブルの方へ歩みつつ。


ロザリオ「寝てないのがいるんだろうなと思って来てみれば、だ」


そう言ってやれば、コウは明らかにバツの悪そうな顔をしてロザリオから目をそらした。

ロザリオはテーブルの前に立ち、コウが広げた書類を数秒じっと凝視し。


ロザリオ「コウ、明日ニクスに言っておくから手伝ってもらえ」


そんでお前は早く寝ろ、とロザリオはコウに言う。

言われたコウは書類と画面を数十秒、交互に見て。ロザリオから見ても終わる気配ねえ、と思われてんだなと納得する。


コウ「解った。今日は寝るよ」


コウはため息をつく。

戦闘面でも自分は役に立たないというのに。

せめて、と思っていたのだが…。コウは気分が沈み、同時に自分に対して苛立ちを感じた。

だが、コウの考えてることなどお見通しだとロザリオはコウに言う。


ロザリオ「何徹目か知らないがいい加減、集中力が切れてんだろ」


まあ、どうせ七徹目ぐらいだろう…とロザリオが言えば、アレクスが信じられないと言わんばかりに驚愕の表情でコウを見た。


アレクス「お前、寝ろ。処理速度落ちるだけだぞ」


アレクスにまで言われてコウは「え」と素っ頓狂な声を出す。

コウの反応にクラウンは「阿呆がおる」と頭を抱え出した。

…こいつ、自分が疲れてるのに気づいてない!

ロザリオとアレクス、クラウンは同時に思った。


コウ「え、え?」

尚もよく解っていないコウに三人は深々と大きくため息を吐いた。


アレクス「お前、疲れてんだよ。気づけ」


アレクスはコウをジト目で見ながら言った。

昔から、忍耐力が強いとは思っていたが。

…単に鈍いだけなのかも。

アレクスは画面を開いて時間を確認する。

午前三時半。今から寝れば結構、寝れるだろうと思う。


アレクス「俺も寝る」


アレクスはそう言って食堂の出入り口の方を向けば、慌ててクラウンが椅子から立ち上がる。


クラウン「私も寝るとしようかの。おやすみ、二人とも」


既に食堂の出入り口に向かって歩き出しているアレクスについて行きながら、クラウンはロザリオとコウに向かって手を振った。


コウ「おやすみー。じゃあ、俺も寝るわ。ロザリオは?」


クラウンに手を振り返し、コウは画面を閉じる。テーブルに広がった書類の山は明日片づけようと紙に自分の名前を書いて重り替わりにお菓子の箱を置いておく。

椅子から立ち上がり、ロザリオを見れば彼は「俺はまだな」とコウが飲み干したカップを手にして食堂の奥へと向かった。

食堂の奥のキッチンは夜間は自分達で食べたら洗うのが決まりだ。

カップを洗浄機に入れて、ボタンを押したロザリオの後ろ姿を見てコウは何かを思うも口にはせず、「カップありがとな」と言って食堂から出た。

食堂で独りになったロザリオは食堂のキッチンスペースから出てテラスへの出入り口に向かった。

オーナーとクラウンの趣味で庭園は専用の者を呼んで頻繁に手入れしているからテラスから見える庭園はいつも美しい。

食堂に取り付けられた大きな窓二枚に挟まれて、透明なガラスのドア。テラスに繋がっているドアを開けてロザリオはテラスへと足を踏み入れる。

庭園の奥には職人に立ち入りを許していない箇所がある。

その箇所にはある滅んだ国の歴代の王の名が彫られた石碑が建っているのだ。

定期的にクラスの誰かが石碑を綺麗にしてくれている。

ロザリオはテラスに置かれているテーブル席の椅子に座り、庭園の石碑がある方を見つめた。


ロザリオ「俺は、随分と皆を辛い目に合わせてるな」


この手はどれほどの力を手にしても何一つ、守り抜けない。

守りたいと足掻いて来たのにいつも裏目に出ている。


ロザリオ「ミトラス、お前に助けてと言っていたら運命は変わっていたのか…?」


テラスは壁も天井も透明な材質で作られている。

ロザリオは顔を上げて、夜空に浮かぶ月を見た。


●●

朝、ナイは目が覚め起き上がる。

辺りを見回せば見慣れたいつもの部屋でナイはほっと息を吐く。

たまの宿泊施設も贅沢で良いのだが、やはり住み慣れた部屋が一番だとナイの表情も自然と緩む。

謹慎という名の休みを貰ったナイはノービリスとの戦いで負った傷を癒そうとのんびり過ごすと決めていた。

一先ず、皆に朝の挨拶をしようと寝間着から制服に着替えて部屋を出た。


レオ「あ、おはよう。ナイ」


部屋を出た廊下でナイは3-3クラスのレオと廊下でばったり出会う。

レオがにこやかな笑顔とともに挨拶してきたのでナイも笑顔で返した。


ナイ「おはよう、レオ。今から食堂?」


ナイが聞くとレオは「そうだよ」と頷き、ナイに「一緒にご飯食べよう」と誘ってくれたのでナイは嬉しそうにレオの隣を並んで歩く。


レオ「東大陸の話、聞いたよ。大変だったね」


ナイ「うん、でも皆に助けてもらったから」


レオ「あとで僕が診ようか?かなり無茶したでしょ」


ナイ「…解った?」


ナイが悪戯がバレた子供みたいに茶目っ気を出して言えば、レオは「解るよ」と半分呆れていた。

二人が仲良く談笑を交えながら歩き、…そうこうしてたら食堂についた。

この時間はオーナーの雇った料理人が来てくれている。

ナイとレオが食堂の出入り口の扉を開けて入れば食堂にはコウとクラウン、もう一人が中央のテーブル席にいた。

ナイが「コウ早いなー」と思っていたら、コウとクラウンが気づき。


ニクス「お、二人ともおはよー」


コウとクラウンと一緒にいた青年がナイとレオに気づき、満面の笑顔とともに声をかけてきた。


レオ「ニクス、おはよう」


レオも笑顔でそれに応えれば、ニクスは「今日も可愛い!!」と歓喜の叫びを上げた。

3-2クラス委員長ニクス。アレクスと同郷で幼馴染み。

ただ、当のアレクスからはわりと雑な扱いをされているが細かいことは気にしない男なのでめげない。

あと可愛い子が大好きであり、絶賛恋人募集中である。


ニクス「レオちゃん!一緒にご飯食べない?」


ニクスは顔を赤に染めて、自分の隣の空いてる席を指で示す。

ニクスと向かい合い座っているコウと斜め向かいに座るクラウンが呆れた表情を浮かべていた。


コウ「強者だな…」


あれから睡眠を取って頭が働くようになったコウは画面のキーを片手で打ちながら、空いてる手で書類を見ながら呟く。

コウの呟きに同意したクラウンも頷いた。


クラウン「イーグルに睨まれても知らぬぞ」


ニクス「イーグルが怖くてレオちゃんを口説けるかっての!」


ニクスは椅子から立ち上がり、食堂の入り口付近に立つレオとナイの元へと移動する。

彼の視界には今日も可愛いレオしか映っていない。

「れーおーちゃーん」と嬉しそうにレオのもとへと走ってくる彼をナイとレオは困惑めいた表情で見ていた。

 

アサギ「ナイ様、お食事ですか?」


既に食堂に来ていたアサギがにこやかな笑顔とともにニクスの頭を掴んだ。


良かったな、とコウは友人ニクスに思った。

あのままレオに抱きつきでもしたら…、考えただけでも恐ろしい。

コウは目を細め、アサギに頭を掴まれているニクスを見た。

当のニクスはアサギを見て。


ニクス「俺は綺麗な顔には興味がねえ!」


アホな事を言っていた。

…コウは可愛い顔してたら性別は気にしないのかって以前、アホな友人に聞い事があるが「出来れば女子がいい」とニクスは良い笑顔で言っていた。

コウはそれを思い出して深いため息を吐き、業務処理を続行する。

ナイはアサギを見て嬉しそうに表情を輝かせた。


ナイ「アサギさんはもう食べましたか?」


ナイが聞けば、アサギはニクスの頭を掴んだまま返す。


アサギ「今からですよ。ナイ様達もご一緒にどうですか?」


アサギに誘われ、ナイは隣に立っているレオを見ればレオは優しい笑みを浮かべて「せっかくお誘いされたからね」と言う。

ナイはレオとアサギと一緒にご飯を食べられると更に喜び、笑顔になった。


ニクス「ええー、レオちゃん俺とはあ?」


ニクスが哀しそうな声を上げればクラウンが呆れた様子で。


クラウン「お主にはコウの手伝いが残っておるじゃろ…」



●●

ロザリアは目を開けた。

視界には見慣れた天井。だが、自分とは違う温もりを感じてロザリアは横を向く。


ソウマ「おはよう、ロザリア」


視界に移る美しいソウマの顔にロザリアは悲鳴を上げそうになったのを精一杯堪えた。


ロザリア「え、え?な、なんでソウマが、あれ?!」


あれ、どっから記憶無いんだ?!とロザリアは先ず、自分の記憶を思い出す。

東大陸から帰ってきて、みかんに謹慎言い渡されて、ああでもヴェルヴェリアの依頼について調べておこうと考えて。

そこまで思い出してロザリアはどういう事なのかと首を傾げたくなるが、身体はベッドの上で横になってる。

考え、思い出そうと焦っているロザリアを面白いなーと思いつつ、ソウマはロザリアに教える。


ソウマ「寝れなくて、深夜にどこかで涼もうかと思ってたら君が廊下で倒れてたってだけだが…」


ソウマの言葉にロザリアは「ふぇ?」と間抜けな声を出した。

…倒れた時の記憶無いんだけど。

最近、倒れるような無茶をした覚えが無いとロザリアは考えた。

ロザリアが「うーん」と唸っているとソウマが柔らかな笑みを浮かべる。


ソウマ「もう少し、寝るといい。…謹慎なのだろう?」


そう言ってソウマはロザリアを自分の方へと抱き寄せた。

…ソウマ、これ無自覚なのかしら。

ロザリアは戸惑いながら考える。

恋人同士でも無いのに同じベッドの上で寝るって、良いことでは無いと思うが。

…ああ、でもこの子の出自を考えると仕方ない気もするけど。

なら、やはり教えた方がいい。

このままではあかん、とロザリアは目をかっぴらぎ上体を起こす。

ロザリアが起きたことでソウマは瞼を半分おろして上体を起こしたロザリアを見る。

当のロザリアは「よし」と自分に気合をいれて、ソウマの方を向く。

そこでロザリアは動きをぴたりと止めた。

自分のベッドの上で横たわるソウマが気だるげな眼差しでこちらを見ており。

…あ、うん、何て色気。

妙な納得をした。

しかし、ここでソウマの色気に敗けて甘やかすのは良くない。

今後、色々な出会いを彼はするのだ。

ロザリアは改めて自分に気合を入れ、ソウマに言う。


ロザリア「ソウマ!恋人でも無い奴と同じベッドで寝るのはダメ。ちゃんと自分のお部屋で寝ないと」


言い切り、ロザリアは心の中でガッツポーズをする。

だが、ソウマは何を言ってるんだと表情を険しくした。


ソウマ「俺は君の寵姫だろう。寵姫の役目は主人を喜ばせる事ではないのか」


ロザリア「おおーい!!吸血鬼と寵姫の関係はそんな怪しいものじゃないわよ!?」


思わず、ロザリアは声を上げてソウマにツッコミ入れた。

中には確かに寵姫侍らせてる吸血鬼がいるが、ロザリアにはそんなつもりは毛頭ない。


ロザリア「私はソウマをそういう目的で寵姫にしたわけじゃないからね?!」


…ロザリアがソウマの血を飲み、自分の血を彼に渡したのはソウマを籠から解いて彼を出来る限り自由にしてやりたかったからであって。

ロザリアはソウマの頭を撫でる。

綺麗な銀の髪。とても綺麗に輝くソウマの銀の髪は誰の髪よりもきっと美しいのだろう。

ソウマは美しい。だからこそ彼の美しさに魅かれた者は彼を縛り、手放す事を恐れた。

自分の知らないソウマの過去はきっと、辛いものだったに違いない。

おおよその検討はつく。

この危うさのある美しさに魅かれれば何も思わないわけがない。


ロザリア「…私はソウマを守る。貴方に少しでも世界を見て貰いたいから」


ロザリアは眉を下げて笑った。


ソウマ「ロザリア、じゃあ俺はどうすればいいの?誰かを喜ばせることしか知らないのに」


無表情だが、震えた声でソウマはロザリアに問う。

問いにロザリアは「そうねえ」と首を傾げ、数秒考えたあとに、


ロザリア「お腹減ったから、食堂に行ってそれから考えましょ!」


元気よく言ってソウマの肩に手をかけて上体を起こす。

互いの距離が近いがロザリアは気にせず、優しい笑顔をソウマに向けた。

彼女の笑顔にソウマは顔を赤に染めて頷く。


食堂に着いたロザリアとソウマが目にしたのは困惑気味のレオを口説くニクスと、ニクスに手伝って貰えずに嘆くコウ。

アサギはナイと楽しそうに食事している。

クラウンはマイペースにお茶を飲んでいた。


クラウン「ニクス、天敵その1が来たぞ」


コウの作業を紅茶を飲みながら見守っていたクラウンがロザリアが食堂に来た事をニクスに告げる。

ニクスはレオの手を握り、何か言っていたがロザリアの登場に動きを止めた。

当のロザリアは腕を組み、特に気にもしないと無表情だが行動は違った。


ロザリア「イーグルとアレクスにちくったろ」


画面を開き、アドレスリストを選ぶ。

ロザリアの指の動きにニクスは悲鳴を上げた。


ニクス「待って!!イーグルはともかくアレクスは待って!!」


顔面蒼白。その表現にぴったりなほど青ざめたニクスの顔色にロザリアは意地の悪い笑みを浮かべた。


ロザリア「そういえば、ニクス君。コウの手伝い誰かに頼まれてなかった?」


おっかしいねー?とロザリアは首を傾げて、わざとらしく可愛らしい声音を出す。

口を三日月の形に歪め、金の瞳の奥には怒りの炎を揺らめかせた。

ニクスは額から汗を流し、言い訳のできない状態で身動きが取れない。

ロザリアの横にいたソウマは「え?え?」とおろおろしていたのをいつの間にか来ていたクラウンがロザリアから離す。

ロザリアは大理石の床を蹴り、常人では見えない速度でニクスへと跳ぶ。


ニクス「マジごめん!ほんと」


何やら早口で謝罪を述べたニクスだが言い終わる前に顔面でロザリアの蹴りを食らった。


コウ「自業自得だ、アホ」


結局、ニクスに手伝って貰えなかったコウもさすがに庇う気になれず作業を進める。

ロザリアの跳び蹴りを食らってニクスは後ろ向きに倒れた。食らわせた張本人は綺麗に着地して良い笑顔でソウマの方へと歩む。


ロザリア「ソウマ、何食べる?」


ソウマ「あ、うん、何にしよう?」


ニクスに蹴りをお見舞いしたロザリアを見たアサギは苦笑した。

一緒に食事していたナイが席から離れ、ニクスの顔に治癒魔法をかけてやればニクスは


ニクス「レオちゃんに治癒魔法かけて貰いたかった……」


と、寝言を言い出したのでナイはニクスの額を優しく叩いた。


第十四話に続きます