第14話 思惑

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ロザリアからの跳び蹴りを食らったニクスはナイの治療魔法のおかげで全快。

流石にロザリアの目とコウのふてくさりぶりにレオの所へはいかず、大人しくコウの手伝いをする事に。

ニクスがコウの向かいの席に座って作業を手伝っているのを見届けたロザリアはソウマの腕を掴む。


ソウマ「ロザリア?」

腕を掴んだまま、ロザリアはソウマをレオとナイ、アサギが座る席の前に連れて行く。


ロザリア「ソウマ、紹介するね 」


ロザリアはにっこりと優しい笑みを浮かべてレオとナイ、アサギをソウマに紹介する。


ロザリア

「同じクラスのアサギとナイ。レオは違うクラスだけど任務で組むこともあるからね」


ロザリアに紹介された金髪の男子制服を着たレオが椅子から立ち上がり、ソウマに握手を求めて手を出す。

あどけない顔立ちに可愛らしい笑み。ソウマはレオの顔を凝視し、首を傾げつつも恐る恐るレオの手を握った。

レオの手は柔らかい。

ソウマは疑問をそのまま声に出していた。


ソウマ「何故、女人が男子制服を…?」


ソウマの疑問にナイとロザリア、当のレオは固まり。アサギは「ああ、そうでしたか」と納得していた。


ロザリア「ちょ…ソウマ!」


我に返ったロザリアがソウマの着ている和装の袖を引っ張る。

きょとんと、戸惑いを含ませた表情をしてソウマはロザリアを見つめた。


ロザリア「それ、内緒なの!知ってる奴のが多いけど、知らない奴もいるから」


ソウマ「そうなのか。済まなかった、レオ」


ロザリアに注意されてソウマは素直にレオに謝罪すれば、レオは苦笑しながら。


レオ「ううん、大丈夫。今イーグルいないし…」


辺りを気にしながらレオはソウマと握手を交わす。


レオ「よろしくね、ソウマ」


ソウマににこやかな笑顔を向けるレオ。

彼女の笑顔を見た時、ソウマは突然自分の手に静電気が走り小さな痛みを感じた。

驚いてソウマはレオの手を離そうと思ったが、ソウマの頭の中で見たことも無い場面が見えた。

レオにそっくりな女性が倒れている。

女性は既に事切れているのがソウマの目にも解った。

…一瞬、頭の中で見えた場面にソウマは額に汗を滲ませつつ、レオの手を離してロザリアを見る。


ロザリア「ソウマ、大丈夫?何か顔色悪いけど」


妙に顔色が青白いソウマを見てロザリアは心配した様子を見せた。


ソウマ「あ、ああ。大丈夫だ 」


歯切れの悪い返事をしながらもソウマは頭の中の場面が忘れられなかった。

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その後、ソウマはアサギとナイとも会話したが、気分が優れず。

ロザリアにソウマの部屋に送り届けてもらった。

暫く、ソウマは寝室のベッドに横になっていたが目を閉じれば思い出す。

レオによく似た女性が倒れている場面。

そしてそれがやがてロザリアと重なりだす。


ソウマ「!!」


ソウマは飛び起きる。

何だ、と自分自身に問うても答えなど勿論出ない。

ソウマは頭を抱えた。

その時、寝室の扉を誰かがノックする。


ロザリア「ソウマ、大丈夫?制服、届いたから扉の前に置いておくね」


声は勿論、ロザリアなのだとソウマも気づくがとても誰かに会える気力は無く。黙っていた。

ロザリアはそれを察したのかすぐに退室したらしく、気配が遠ざかった。


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ロザリアはソウマに制服を届けた後、様子がおかしい事に驚くことも慌てる様子もみせず食堂で昼食を取っていた。

ロザリアと同じテーブル、ロザリアの隣の席に座っているのは今しがた起床してきたアレクス。向かいの席にはクラウン、斜め向かいにコウが座っている。


クラウン「ロザリア、天上の民という自覚が彼にあるのかのう?」


そう発言したのはクラウン。

クラウンは更に乗ったハンバーグをナイフとフォークで切り分けながら、ロザリアに問う。

問われたロザリアはサンドイッチを片手に目を細めて考える。


ロザリア「…本人に聞いてないが、あれは覚えて無いってタイプだと思う」


少し、間を空けて答えるロザリアにクラウンは「そうか」と切り分けたハンバーグをフォークで刺して口に運ぶ。

ロザリアの隣に座るアレクスはコーヒーが入ったカップを手にして言った。


アレクス「堕天って感じでは無いよなあ。天上がお手上げの重罪を犯したようには見えないが」


…堕天なら記憶あるか、と呟きつつアレクスはコーヒーを口に入れた。

天上の世界がどうなっているのか、などの細かい話は多くに伝わっていない。

ただ、極稀に天上の民が落ちてくる。

落ちて来た天上の民は天上で許されざる罪を犯したと、本来持っている光翼を痛めつけられて。

だが、ソウマは美しい光翼を持っている。

うっすらとだがロザリアにも視えた。


コウ「そういえば、天上の民って地上の者に絶大な効果の魅了持ちなんだろ?俺はよくわかんないけど」


クラウンの隣に座っているコウは、クラウンの食べているハンバーグの皿に乗っている一口大に切ったニンジンに自分の持っているフォークを刺して口に運びながら言った。

コウの発言に三人の思いは同じだ。

…やっぱり鈍い。

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四人が会話を楽しみながら昼食を取っていると学園のオーナーが相変わらず、怪しさ満載のみかんの被りものを頭に被ってやってきた。

四人はオーナーに気づいく。コウが「オーナーも昼飯?」と聞けばオーナーは頭を横に振った。


みかん「いや、依頼が来てね。誰に行ってもらうか君たちに相談しに」


オーナーは画面を表示し、四人が囲うテーブルの中央にも同じ内容を表示した画面を出す。

ロザリアとコウは画面の無いようをまじまじと見つめ、アレクスは興味が薄いのかコーヒーを飲む。


ロザリア「ローゼ村周辺の洞窟に発見された研究施設の調査依頼…って」


画面に表示された内容を途中まで読んだロザリアはコウを見る。

コウは呆れたといわんばかりにため息を吐いた。


コウ「あの村、やっぱり繋がってたのか」


コウのため息にアレクスはカップを口に近づけたまま、意地の悪い笑みを浮かべた。


アレクス「で、どうする?メンツは」


アレクスはまだ、意地の悪い笑みを浮かべてコウに質問を投げる。

コウは頭に左手をあてて悩む。


コウ「そうだなあ…。アサギとナイ、レオ…ああでもレオはイーグルの許可がなあ」


クラウン「待つのじゃ、レオもナイも魔法特化系だぞい。流石にアサギ一人には荷が重いと思うがのう…」


コウの編成にクラウンが待ったをかける。

クラウンの意見にコウは詰まり、「そうだよなあ」と呟く。

しかし、


イーグル「なら、俺も行こう」


突然背後から聞こえた声にコウは苦笑して自分の背後に立つ青年へと振り返る。

コウの背後には銀の長い髪を後頭部の高い位置に一つにまとめた、青い瞳の美青年。

3-3の委員長イーグル。一応、レオの弟となっているがレオとの血の繋がりは無い。

そしてレオが女性だとは知らないのが彼だ。


ロザリア「…何だかんだで心配なのねえ」


ロザリアが呟くとイーグルは鋭い眼差しをロザリアに向けたが彼女は全く気にもしてない。

二つ目のサンドイッチを食べ始めたロザリアは「ああそうだ」と何でもないことの様に自分とアレクスの背後に立つオーナーに言った。


ロザリア「この依頼、どこからの依頼?」


ロザリアの質問にオーナーは意外な返事を寄越した。


みかん「太陽帝国のお偉いさんかな~?」


オーナーの言葉にアレクスは飲んでいたコーヒーを吹き出した。

コウは背後のイーグルを見ていたがすぐにオーナーの方へと向き、首から変な音がした後、痛みにテーブルへと突っ伏した。

イーグルは無反応、クラウンはハンカチを懐から取り出し、テーブルに手をつき身を乗り出してアレクスの口を拭く。

ロザリアは目を細めて、三つ目のサンドイッチを手にした。


ロザリア「ソル・ヘリオスはどういうつもりかしらねえ…」


覚えている。

ロザリアの記憶の中で今でもすぐに思い出せる。赤い髪の青年の後ろ姿。

幾度も敵同士として戦った。

太陽皇帝の隣に控えるその男の名はソル・ヘリオス。

ロザリアの吐いた呟きにクラウンに口を拭かれ、眉を下げて自分でテーブルを拭くアレクスが返事をした。


アレクス「…もう、動き出してるのかもな」


アレクスの言葉に誰も疑問は持たなかった。


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…そう、既に動き出しているのだ。

様々な者達の、宿命が。

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それから一夜明け、アサギとナイ、レオの三人は学園のロビーに集まっていた。

緊急任務、との呼び出しをコウから通信で受けた三人は首を傾げつつも出発に備えて控えていた。


ナイ「謹慎、早い取り下げでしたね」


アサギ「そうですね…」


ナイは苦笑し、早い休みの取り下げに少し残念だと言う。

それに対してアサギは引きつった笑みを浮かべて応えた。

二人を微笑ましく見守りつつ、レオはコウから送られてきた任務の内容を画面に表示させる。


レオ「ローゼ村って前に二人が行ったところだよね?」


内容を一通り、確認したレオがアサギとナイに声をかければ、二人は頷いた。


アサギ「はい、ローゼの依頼で魔界の欠片討伐に…」


レオの問いにアサギが返す。

ナイとの初任務で魔界の欠片の討伐に向かったのがローゼ村だった。

結果は何とも言えないものだった。腑に落ちない点が多く、だがタキからは「これ以上は政府の仕事」だと言われ、忘れる様にしていたが…。

何だって今更、とアサギは疑問に思う。

しかし、アサギの疑問は現れた人物によって中断することとなる。


イーグル「待たせて済まない」


現れた銀の髪の青年。

…イーグルの登場でアサギは目を大きく開いた。

あの日みたナイの記憶の中で、ロザリオの後ろに立っていた青年。その人と目の前に立つ青年が瓜二つどころか同一人物にしか見えず、アサギは驚く。

だが、彼はあの日から年老いてる様子は無い。

…あの時の姿のままだとアサギは唖然とした。

そのアサギの様子に気づいたナイはアサギにこっそり小声で言う。


ナイ「この間、見た人と同一人物ですよ。アサギさん」


アサギ「…お姿、変わってませんね」


アサギの当然の疑問にナイは答えなかった。

きっと、何かあるのだろうと察したアサギは深く追求しなかった。

イーグルは画面を開き、任務の説明をアサギとナイ、レオの三人に簡易にする。


イーグル「先ず、ナイの移動魔法でローゼ村に飛ぶ。ローゼの近くに洞窟がある、そこが調査対象だ」


イーグルの説明を聞いたナイが懐からソレール・アームズの杖を取り出す。

ナイは目を閉じて、魔法の詠唱に入る。

杖の先端に取り付けられた宝石から光の粒子が零れ落ちた。

ナイが移動魔法の準備を行っている間、レオはイーグルに質問する。


レオ「この顔ぶれから見るに危険な任務ということ?」


レオの質問にイーグルは頷く。


イーグル「それなりに危険が伴う、と覚悟しておくべきだろうな」


イーグルの返答にレオは「うん、わかった」と短く呟く。

二人の会話の中、目を閉じていたナイが目を開ける。


ナイ「ローゼと接続しました。いつでも行けます」


ナイは杖を構えた。宝石が強い光りを放ち始める。

イーグルはナイの言葉を受けてレオとアサギを見る。二人共、いつでも行けるという意味を込めて力を強く頷き。

確認したイーグルはナイに向かって言った。


イーグル「頼む、ナイ」


ナイ「はい!」


ナイは杖を前に構えて、脳内でローゼ村を強くイメージする。

体内の魔力が杖の先の宝石へと集い、宝石は白い光りを放ちアサギ、レオとイーグル、ナイを包む。

白い光りは四人をすっぽりと覆うと、すぐに縦一メートル程の球体へと収縮し消えた。

四人の姿は学園のロビーから光と共に消え去る。

消えた四人を壁に背を預けて見守っていたロザリオは複雑な心中を抱えていた。


ロザリオ「ソル・ヘリオス…」


ロザリオは画面を開く。

完全に秘匿の、強固なプロテクトをかけたメッセージがロザリオのもとに届いていた。

メッセージを読んで、ロザリオはため息を吐く。

ロザリオは画面を消し、顔を上に向け瞼をおろす。


ロザリオ「…イーグル、三人を頼む」


言葉を呟いた後、ロザリオは瞼を上げて正面を向く。

ロザリオは学園の内部とは反対の外に向かって歩き出した。


第十五話に続きます