第20話 二人は…

ナイは小さな頃、他の誰も持っていない能力があった。

両親がナイと同じ能力を持っていたかは知らないが。ナイはその能力の制御が上手くいかず、よく泣いていた。

まだ十歳になるかならないかぐらいの時である。

家族と親類を失い、血縁者と呼べる人達のいない中で能力を誰にも相談できずにいた。

しかし、様子がおかしいことなどアレクスにはお見通しだったらしい。


ロザリア「ナイ、どうしたの?」


与えられた学園寮の自室のクローゼットに閉じこもるナイに、扉越しで声をかけてきたのはロザリアだった。

アレクスに様子を見るように言われたのか、ロザリアは優しい声音でナイは狭いクローゼットの中で嗚咽を零した。

自分の身体が気持ち悪い。

ナイは涙を流し、声を殺して。嗚咽だけを零した。


ロザリア「ナイ、大丈夫よ。…私も貴方と同じだから」


クローゼットの扉越しで聞こえるロザリアの優しい声。

ナイは心の奥でロザリアの言葉を繰り返した。

同じ…?

だって、言ったじゃない。もう、僕一人だけしかいないんだって。

最期の王で、僕は独りなのだと。

言ったのはロザリアだ。


ナイ「違う、僕は独りだよ… 」


言ってナイは自分の殻に閉じこもる。

ナイの小さな呟きを拾ってロザリアはクローゼットの取っ手を掴んだ。

修理は後々、みかんに頭を下げれば済む話だと頭の隅で考えて。

大きな音と共にナイの閉じこもっていたクローゼットの扉が開けられた。

鍵の部分がへしゃげ、扉とクローゼットを繋げ固定していた金具は盛大に折れて取れた。

扉はもう扉の機能をしていない。

ナイはほとんど外れている扉に恐怖を感じながらも、クローゼットのの外から延ばされた手を掴んだ。

掴んだその手は大きくて、とても女性の手では無かった。

暗いクローゼットの中にいたせいで。ナイの目に外の明るさは眩しかった。

だが、その眩しさで見えた彼の笑みにナイは安堵した。


ナイ「僕は、独りぼっちじゃなかった…」


涙と共に零れ落ちた言葉。

そう、独りじゃなかったのだ。


●●

エルフの長老から聞かされた話にロザリアは先ほど視えた幻視を振り切って長老に問う。


ロザリア「魔界の欠片を使役って、そんな事がたかが盗賊に可能なものかしらね」


本来、魔界の欠片には知性と意志など無い。

近年目撃されている進化する魔界の欠片ならば話は別なのだろうが。

…だとするなら、この一件にマツ博士が関わっている可能性が高いとロザリアは結論を出す。

流石に帝国が魔界の欠片を使役する力は無いだろう。

そんな力を持っているならマツ博士を追う意味も無い。

ロザリアの問いに長老は「不可能だろう」と返答した。

そうだ、魔界の欠片は一介のヒトでは到底扱いきれない存在だ。


エルフの長老「…数百年もの月日を生きている私でも、そんな方法にたどり着いたことは無い。アレクス殿の学友殿、」


魔界の欠片はそれだけ扱いに難しい存在だ。

よく、マツ博士はフリージアを作り出せたものだとロザリアが胸中で感心していれば、長老は言葉を途中で切ってロザリアに小さな石を渡してきた。

その石を受け取ってロザリアは長老を見る。


ロザリア「…?」


長老から渡された石は赤く、つるんとした光沢がとても綺麗なものだった。

見えない疑問符を頭に浮かばせてロザリアが首を傾げれば、彼女の横にいたソウマが石に触れる。

ソウマがロザリアの手にある赤い石に触れれば、小さな痛みを指先に感じ。ソウマの脳内に幻視が浮かぶ。


ソウマ「ロザリア、それ。解析すれば良いよ」


何が見えたのかソウマは口にはせず、それだけ言った。

ロザリアはソウマの言葉を受けて長老を見れ、彼は頷く。

…ロザリアは人前で解析しないほうがいいかな、と思いソウマの顔を見る。

ソウマはロザリアの耳に顔を寄せて小さな声で囁く。


ソウマ「それに手がかり入ってる」


成程、とロザリアは納得した。

この石に子供達を攫った奴らの情報が入ってるわけか。

しかし、同時にロザリアは妙な引っかかりを感じた。

何故、それを長老は一言も言わないのか。

石に情報が入ってる事も隠していたい様だ。

…内部に子供達を攫った連中に関りがある奴でもいるのかとロザリアは思った。


ロザリア「長老、一度学園に戻って態勢を整えてくる」


勿論、嘘だが。

ロザリアは言って長老に別れを告げる。長老はロザリアの嘘に気づき、「では、また」と合わせてくれた。

ロザリアはソウマを連れて、エルフの森の入り口を離れた。 

ロザリアは森林の中をソウマを連れて歩いた。

特に自分達を追ってくる気配は無い、と確認してロザリアは周囲を見回す。

簡易な結界魔法の文句を口にしてロザリアは自分とソウマを結界の内側に、結界に誰かが近づけばロザリアに報せが来るようにと周囲に魔法を仕掛けた。


ロザリア「本格的なもの張れれば良かったけど…」


だが、時間は待ってはくれない。

ロザリアはエルフの長老に渡された赤い石を手に、ため息を吐く。

万が一、魔界の欠片に攻撃されれば容易く壊れるだろう。


ソウマ「ロザリア、石の解析を 」


ソウマに促され、ロザリアは「そうだった」と赤い石を手に。正方形の画面を表示させ、ロザリアは画面に石をはめ込む。

ロザリアの使用する方式は魔力によるシステム。自身の魔力によって画面を通して通信をすれば、解析することも可能だ。

画面が魔力によって石の解析を始める。

情報は魔力使用者のロザリアの脳内に入ってくるが、一応外部にも情報は出せるようにしてあるので画面に解析結果が表示されていく。

表示された結果には録画データと位置情報がある。


ロザリア「録画データから再生するわね」


ロザリアは言って画面を操作する。

画面は分離し、別れた画面の一つに石に録画されたデータが再生される。

映像が映った。

周囲は森林だが住宅と思わしき建物がある。

エルフの森の結界の内部だろう。

画面は揺れが激しい。

恐らく、事件が起きてすぐに撮影されたものと思われる。

怒号と悲鳴が混じり合い、すぐ傍でエルフの長老の大きな声が聞こえた。

近くで子供の泣き声が聞こえ、撮影もそちらの方へと向いた。

エルフの長老の背中が映り、長老から離れた場所に子供を抱えた男が立っていた。

男は下衆めいた笑みを浮かべて立ち、すぐに長老は男へと弓を構えて矢を向ける。

しかし、男の前に顔の無い少女の形をした魔界の欠片が現れる。

男を庇っているとも取れる魔界の欠片達。

長老は苦し気な声を吐いた。

魔界の欠片の対処をしている内に男が子供を連れて逃げるのは明白。

男は高笑いして、子供を抱えて森林の暗闇の奥へと歩を進める。

長老は魔力を込めた光を子供に向けて放った。

その後の映像は長老と魔界の欠片の交戦のみだった。


ロザリア「…次は位置情報ね」


映像を切り、ロザリアは画面を操作する。

位置情報の展開を操作すれば、新たに画面が表示され画面には周辺の地図と赤い点が表示された。

長老の子供に向けた魔法は子供の位置を探知するものだろう。

地図に表示された赤い点が子供のいる位置と見て間違いない。

…エルフの森とそう離れてない場所に点はあった。


ソウマ「ロザリア、行くのか?」


ソウマがロザリアに問う。

ロザリアは笑って頷く。


ロザリア「とっとと行って片づけないとね」


学園の食堂にいたナイは夜が明けている事に気づいた。

窓から見える空はうっすらと青い。

未だ、椅子の上で拘束されている大人のフリージアはナイの顔をじっと見ていた。

視線に気づいたナイはフリージアを見て首を傾げる。

あ、と短い声を上げてナイはフリージアの手に触れた。

しかし、魔界の欠片が元である彼女の身体は通常のヒトが触れれば瘴気の熱さですぐに火傷する。


ナイ「…っ」

だが、ナイはすぐには手を引かなかった。

二人のフリージアはナイの行動に目を大きく開く。

大人の姿をしたフリージアが口を開いた。


フリージア(大人)「貴方、馬鹿なの!?生身で触れるから!」


ナイに向けられたフリージアの言葉にナイは苦笑する。


ナイ「えへへ、ごめん」


強い口調だが、フリージアの言葉はナイを責めているようには感じられず。

きっと本当は優しい女性なのだろうとナイは思った。

どうにか、彼女達を救えないだろうか。

ナイは目尻から零れる涙と共に思う。

大人の姿をしたフリージアはナイから零れる涙を拭ってやりたいと思うも、それが出来ず歯がゆい気持ちを抱いた。

もっと別の場所で別の存在として出会えていたら、友になれただろう。


ロザリアとソウマは森林の中を歩いていた。

エルフの森の場所からそう遠くない、否かなり近い場所だ。

不自然に盛り上がった丘。

ロザリアはソウマと共に茂みから丘の様子を見る。

一見、普通の丘に見えるがロザリアの目にはその丘が不自然に歪んでいる。


ロザリア「…何らかの魔法が仕掛けられてるわね、」


ロザリアは呟き、どうしたものかと思案してる最中。

周囲から複数の殺気を感じた。

森林の木々に隠れて、こちらへと向けられる殺気をロザリアは探る。

1…2…3…。

数は十といったところか。一人で対処できない数ではない。

だが、木々に隠れていた一人のエルフがロザリアとソウマに向かって躊躇なく、攻撃魔法を唱えて放った。


エルフの男「…ファイアボール! 」


男の前に現れた赤の紋章が発光して、紋章から火の球が六発。勢いよく紋章から飛び出て、ロザリアとソウマに向かっていく。


ロザリア「…ソウマっ!」


ロザリアはすぐ後ろにいるソウマへと振り返って手を伸ばしたが間に合わず、二人の間に火の球が撃ち込まれた。

すぐに爆発音が辺りに響き渡り、二人は火の球の爆発に呑み込まれた。


独りぼっちなのだと勝手に思っていた自分は繋いでもらった手の温かさが尊いのだと。

大人の姿をしたフリージアはマツ博士の研究で生まれたのだという。

魔界の欠片と僅かに残っていた娘フリージアの細胞を掛け合わせて作られた彼女は、ヒトでは無い。

彼女の身体は瘴気が元である。

だから触れれば、溶かされるほどの高温で魔力の防御なければ手などすぐに溶けてしまうだろう。

流石に手を溶かされるのはまずい、とナイは僅かな魔力の防御で手を覆う。

けれども魔力を溶かして彼女の意志など関係なく、彼女の魔界の欠片の部分がナイを溶かそうとしている。


ナイ「僕、家族や周囲を一気に亡くして自分の殻に閉じこもってた時があったんだけどね。その時、今の仲間が僕の手を繋いで今の僕にしてくれたんだ」


だから、彼女にも知って欲しいと思った。

誰かとの繋がり、絆を。

きっと、彼女の世界にはマツ博士が全てなのだろうけども。

こうして出逢い、自分の想いを知って欲しいとナイは思う。

ナイは火傷の痛みに耐えながらも、フリージアの手を握り締めた。


フリージア(大人)「…名前、何ていうの」


フリージアは握り締められたナイの手の感触に、気がついた。

自分の世界には父親のマツ博士だけだった。

けれど、その世界は変わりつつある。

目の前で痛みに耐えながらも自分と手を繋いでくれたナイの茶色の髪と青の瞳を見つめて、フリージアは世界の広さを知り。

ナイの名前がとても気になった。

名前を聞かれたナイは嬉しそうな笑顔を浮かべてフリージアに答えた。


ナイ「ナイ、っていうんだよ」


●●

爆発の火の粉が木々へと散り、木はあっという間に燃える。

先ほどまでロザリアとソウマがいた場所は黒い煙が立ち込めていた。

黒い煙の中、ロザリアは飛び出す。

煙を吸い込み、ロザリアは煙から少し離れた場所で咳き込みながらも立ち、前を向く。


ロザリア「げほっ…!完全にやられたわ。っ、ソウマ…」


どうにか、体勢を崩さずにいるが先ほどの攻撃魔法を右肩に被弾していた。

右肩を庇うように左手で抑え、ロザリアは黒い煙の中にいるであろうソウマを救い出すべく動こうとしたが。


エルフの男「…探し人は彼かな?」


黒い煙の後ろからソウマの腕を掴んだエルフの男が現れる。

エルフの男の後を続き、下衆の笑みを浮かべた盗賊の男達がぞろぞろと、燃えていない木の陰から現れ。

ロザリアはエルフの男を一度睨みつけた後、両手を挙げる。


ソウマ「…ロザリア、」


エルフの男に腕を掴まれているソウマは煙を相当吸い込んだのか苦し気な表情を浮かべて力なく座り込んでいた。

ソウマのぼやけた視界には盗賊に降参を示すロザリアの姿が映る。

自分が人質に捕られているせいだ、とソウマは震える声でロザリアの名前を呼ぶ。

逃げろ、自分のことなど構わず。

そう言おうとしてソウマは唇を動かそうとするがロザリアが笑ったのを見た。

そして、耳には確かに彼女の言葉が聞こえた。


ロザリア「大丈夫、必ず守り抜くから」


ロザリアの言葉を聞いた瞬間、ソウマは痛みを感じて意識を失った。

エルフの男に気絶させられたソウマを見てロザリアは両手を挙げながらもエルフの男を真っ直ぐに見据えて言う。


ロザリア「あなた、私がさっきのした男の一人よねえ。盗賊のお仲間なわけ?」


エルフの森の入り口で、結界を殴ったロザリアに襲い掛かったエルフの大人の中にいた。

ロザリアがソウマを抱えて跳び、着地の際に潰した気がする。

記憶を引っ張り出してロザリアが言えば、エルフの男はニヤリと笑った。

その笑みを肯定ととったロザリアはやれやれとため息を吐いた。

そして、盗賊連中の中の一人が声を上げた。


盗賊1「おい、二人を連れていけ!女はどうしても構わんが、男の方はお頭への捧げものだ! 」


●●

…ソウマの意識が浮上し、彼は目を開けた。

霞む視界と、身体のあちこちが重くソウマはそれどもロザリアの事が気がかりで上体を起こせば視界に見慣れた銀の髪と見知らぬ部屋が映った。

天井の照明は一つで薄ぼんやりとした明るさのせいで室内は暗い。

部屋は文明が発達したこの世界では珍しい石レンガで作られているようだ。

ソウマは自分と違う銀の長い髪を見つめた。

それはソウマの主である少女の髪だ。

だが、ロザリアは鎖に腕を繋がれ吊るされた状態だった。

腕と足に多数の切り傷と痣らしきものが有り、ソウマは目を見開く。


ソウマ「ロザリア!!」


すぐにロザリアのもとへと駆け寄り、鎖を解かねばと。

ソウマは立ち上がって駆け出そうと、身体を動かす。

だが、身体は突然痺れを起こした。


エルフの男「ふふ、無駄だよ」


ロザリアとソウマの間にエルフの男が割って入ってくる。

男はソウマの方へと手を向けているのを見てソウマは彼が自分に何かの魔法をかけているのだと察する。


ソウマ「…何が目的なんだ」


ソウマはエルフの男を睨みつける。

誇り高き種族と云われるエルフの一員ともあろう男の目的をソウマは問う。

ソウマの問いにエルフの男は笑って答えた。


エルフの男「古臭い仕来たりに五月蠅い一族から抜けるための資金集めなだけだよ」


俺は金に囲まれて楽しく暮らしたいんだ。

エルフの男はそう言って笑う。

下衆いエルフの男の笑みが気に入らないとソウマを眉を顰める。

だが、エルフの男はソウマの様子など気にもせず言葉を続けた。


エルフの男「あんたはお頭への捧げものだ。お頭は綺麗な男が好みらしくてな」


エルフの男は言って、いつの間にか手にしていたナイフの刃をロザリアへと向ける。

力無く、鎖に吊るされたロザリアの傍に行き、彼女の頭を掴んだエルフの男はロザリアの首にナイフの刃を押し当てる。

ぷつり、とナイフの刃先がロザリアの首にくい込み、そこから赤い小さな玉が現れる。

ソウマは光景を目にして声を上げた。


ソウマ「やめてくれ!捧げものにでも何にでもなる、…ロザリアにそれ以上手は出さないでくれ!」


元々、奴隷だった事もある。

ソウマは自分が誰に何をされようとも、ロザリアが誰かに傷つけられるのは我慢出来ない。

ソウマの宣言を聞いたエルフの男は高笑いをした。


エルフの男「あははははははは!!いいねえ、お頭に可愛がってもらえよ!!」


エルフの男の狂気染みた笑い声が辺りに響く。

男は未だロザリアの頭を掴んだままでいる。

そして、部屋の扉の一つから巨漢の男が現れた。

身長は二メートルはありそうだ。

縦にも横にもデカい男が室内に入ってきて、ソウマの方へと真っ直ぐ歩いてくる。

男の手には血がこびりついた斧の柄。

これが盗賊の頭か、とソウマは自分の方へと大きな足音と共に近づいてくる男を見て聡る。


盗賊の頭「ほう、なかなかの上玉じゃねえか」


盗賊の頭はソウマの前に辿り着き、ソウマをまじまじと見て言った。

淡い色の光と共に煌めく銀の長い髪、銀の長い睫毛。神秘的なエメラルドグリーンの瞳。

見て解るほどに滑らかな肌、整った顔立ち。

確かにそこらの女性よりもソウマの外見はとても魅力的で美しい。

盗賊の頭は舐めるような視線でソウマを見たあと、ソウマの髪に触れようとしたがソウマは身を捩ってそれを避けた。

ソウマの行為を気に食わんと盗賊の頭はソウマの背後に命令した。


盗賊の頭「おい、女を痛めつけろ」


盗賊の頭の命令に背後にいたエルフの男と周囲にいた盗賊達が声を上げて了承する。

ソウマは顔色を青くし、盗賊達を止めようと声を出した。


ソウマ「やめてくれ!彼女には手を出すな!」


自分さえ、耐え抜けばいい。

ソウマは拳を握り締めて、盗賊の頭に自分を捧げるように目を閉じた。

視界を閉じ、何も感じず終わるまで耐えればいい。

それだけのことなのだと。ソウマは自分に言い聞かせた。


盗賊の頭「ぐへへ、解ればいいんだよ!」


盗賊の頭は右手に斧を持ち、空いた左手をソウマへと伸ばす。

しかし、それを凛とした強い少女の声が制止させた。


ロザリア「…おい、ソウマに触れるな」


声は紛れもないロザリアの声だった。

強い怒気を含んだロザリアの声に目を閉じていたソウマは瞼を上げた。

いつものロザリアらしくない口調に驚いたソウマは振り返ってロザリアの方を見た。

未だ鎖に繋がれているが、意識を取り戻したのか彼女は目を開けてソウマに手を伸ばす盗賊の頭を睨みつけていた。


盗賊の頭「威勢はいいな。だが、その鎖は魔力封じの鎖だ。魔法使いのあんたが魔法使えないでどうやってその鎖から逃れるんだ」


ロザリアに睨みつけられてもお構いなしだと、盗賊の頭は余裕に満ちた笑みを浮かべる。

鎖は魔法使い封じ。

恐らく、ロザリアの高い魔力を感じ取りエルフの男が拘束する際に出してきたものだろう。

…確かに、今のロザリアは鎖に繋がれ魔力を構築しての魔法攻撃が出来ない。

魔法が使えなければ、鎖から解き放たれることは出来ないのだ。

事実だが、ロザリアは笑う。


ロザリア「ふっ…、喧嘩売った相手が悪かったな。お前ら」


…一瞬の事だった。

先ほどのロザリアの言葉のあと、すぐに金属が砕けた音がした。

石畳みの床に鎖の破片が落ち、鎖から解かれて立っていたのは…。 


ロザリオ「さて、どうしてやろうか?」


銀の長い髪の男だった。


第二十一話に続きます