第22話 絶望とオディウム

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辺りに響く爆発の音。

焦げ臭さが鼻につき、ナイは食堂にフリージア二人を連れて厨房に隠れていた。

不安そうに眉を下げ、ナイを見る小さなフリージア。大人の姿をしたフリージアもナイには触れられないが心配そうに傍にいた。

ナイは大きく脈打つ心臓と額に滲む冷や汗を堪えながら、冷静を保とうとした。

焦げ臭さ、爆発の音にナイの脳が強制的にあの日の記憶を引きずり出そうとし、それをロザリアの封印が抑えつける。

ナイが正気を保てるように、と。

…ナイは心底、怖いと思った。

ロザリアが封印しなければ、自分の精神はあの日にどうなっていたのか。

憎悪と哀しみで精神を壊していただろう事だけはナイにも容易に想像はついていた。

…もしかしたら、人形になっていたかも知れない。

…それとも復讐にとりつかれて狂っていたのかも。


フリージア(子供)「…ナイ」


幼いフリージアは辺りを見回す。

自分は霊体だから、余程の者でなければ見えないだろう。

ならば、周囲を探るなら自分は適任だろう、と子供のフリージアは厨房から出る。

彼女は今、こう思っていた。

…ナイに無理はして欲しくないのだと

…幼いフリージアも知っていた。

帝国によって哀しみと憎しみに狂わされているのは自分達だけでは無い事。

父のマツ博士は瓦礫に埋もれていたフリージアの欠片を抱いて、哀しみと憎しみに狂った。

それをフリージアはずっと傍で見ていた。

肉体を失い、魂だけの存在で曖昧な境界に留まってでも父の行く末を見届けるのだと。

…幼いフリージアは思う。

…パパ、私達はきっと道を間違えてしまったのよ

本当に必要な事はきっと、世界への憎しみでは無く。

自分達の哀しみと憎しみに立ち向かう勇気だったのだ、と。

…だから、ナイにはその先へと行って欲しい。

間違えてしまった私達がナイに正しい道を選んでもらえるように。

幼いフリージアは同じ想いを抱くナイに光の道を選んでもらえるように、と願った。

何が起きたのか。

突然の襲撃にアサギは刀の柄を握り、ナイの姿を探す。

金色の甲冑に身を包んだ兵士が学園の校舎の外で整列しているのを、廊下の窓から覗き見たアサギは目を細めた。

南大陸の強国、太陽帝国の正規騎士団。

金の甲冑に身を包んだ姿がその証。


アサギ(…まさか、ナイ様達の正体が露見したのでしょうか?)


アサギは考えるが首を横に振った。

可能性は無いとは言えないが、それならもっと前に露見してるはずだ。

そこでアサギは気づく、フリージアの父マツ博士が帝国に狙われていることに。

だが、正規騎士団は皇帝の意向が無ければ動かせないとアサギは祖国の教育係に教えられたのを思い出す。


アサギ「いえ、考えてる暇はありません。ナイ様を探さねば」


アサギは自分に言い聞かせるように言い、思考を振り払って駆け出し。廊下を走る。

一刻も早く、ナイと合流しなければ。

急ぐアサギが廊下を走る途中で、目の前に人影が飛び出してきた。

アサギはその姿に目を大きく開き、走るのを止める。

…何度かあったことがある。

金の髪、赤と金の左右色が違う瞳。

世界最高峰と呼ばれる学園ヴィルシーナに通う、太陽帝国第二皇子イオ。

アサギの目の前に、その彼がいる。


イオ「…アサギ殿、何故ここに」


低く、よく通るイオの声。

イオも驚いてるのか大きく目を開いて、唖然と言った。


アサギ「それはこちらの台詞です。何故、軍を率いてこの学園に…!」


アサギは責める声音をイオに向け、帯刀しているソレールアームズの刀の抜刀の姿勢をとる。

攻撃の構えをするアサギにイオは目を閉じ、息をつく。

そして目を開き、イオはアサギに言う。


イオ「…ここに、危険な生物兵器がいると兄上から排除の依頼がされた。ヴィルシーナはそれを受けた。軍は兄上がこの学園から抵抗があった時に使え、とな」


イオの弁からアサギは険しい表情を浮かべた。

…つまり、こちらがフリージアを匿っていることを確信とした話だ。

この学園ごと、太陽帝国は排除するつもりとも考えていいのだろう。

軍まで投入しているのだ。


アサギ「イオ様はどのようにお考えなのですか?そもそも、生物兵器がいるなどと証拠があっての話しなのですか?」


アサギは尚も攻撃の構えを崩さず、イオに問う。

だが、イオは先ほどから無表情のままアサギを見つめていた。


イオ「…貴殿にそこまで教える義理は無いだろう」


イオはアサギに言い、背を向けた。

アサギはイオの背中に向かって声を上げる。


アサギ「どこへ…!」


アサギの問いにイオは決まりきった事をきくな、とため息を吐いてアサギに返す。


イオ「…生物兵器を抹殺しに、」


イオの返答にアサギは眉を寄せる。

腰に帯刀している刀の鞘を握り、柄に手をかけて。イオとの距離はそう離れていない。

斬りかかれば十分、届く距離だ。

…先ほど、フリージアの傍にいるとナイは言っていた。

アサギはナイの姿を思い、描く。

優しいナイはフリージア達を放っておけないのだろうとアサギは考えた。

ナイもフリージアも帝国によって全てを失っている。

…行かせるわけにはいきません。

アサギは床を蹴り、駆け出しイオの背中へと抜刀する。

だが、刀はイオの背中に届かなかった。

否、誰かがアサギとイオの間に割って入りアサギの刀を受け止めたのだ。

アサギの視界にはイオとは違う金の長い髪が映る。


アサギ「貴方は、エルヴァンスの…?!」


世界最高峰の学園、ヴィルシーナの制服に身を包んだ青年がアサギとイオの間に割って入り。彼はアサギと同じく刀でアサギの刀を受け止めている。

金の長い髪と鮮血のような赤の瞳。

ヴィルシーナを運営する、北の大陸の名家。かつては北の大陸えお支配していた王の末裔ともいわれているエルヴァンス家。

そのエルヴァンスの一員でヴィルシーナでも、名の知れた刀使い。


キリヤ「イオ、何故ここにスメラギ国主の嫡子がいるんだ」


アサギの刀を受け止めながら、キリヤは背後にいるイオに向かって言った。

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学園の至る所で、爆音が聞こえる。

タキは図書室で通信画面を開きながら、紅茶を飲む。

オーナーの趣味で白く美しいカップに注がれた紅茶にタキの顔が映る。

タキの肩には丸い、紫の奇妙な生物が乗っかっており生物は興味津々といった様子でカップとタキの顔を交互に見ている。

タキはため息をついた。


タキ「傍受されてたんじゃないの?」


タキは通信画面に向かって呆れた様子で言った。

画面には音声のみと表示され、向こうから低く弱っている声が聞こえる。


ソル・ヘリオス「電子通信は使っていない。…一体、何故お前達に軍を…。やはり、陛下に直接」


タキの通信相手、ソル・ヘリオスは映像が映らなくても頭を抱えているのはタキは察する。

タキは太陽帝国の皇帝に直接問いただすつもりでいるソルの様子に待ったをかけた。


タキ「やめときなよ、ソアレに変な嫌疑をかけられるよ」


タキは言って、再び紅茶を飲む。

今のソル・ヘリオスの立場は危うい。

ソアレはソルを引きずり下ろしたいと考えてもいい、と。

ソアレがアレを使えないならソルなど特に価値は無いだろう。


ソル・ヘリオス「だが、どうにか出来る状態なのか?ソアレはイオの通うヴィルシーナに依頼まで出した。お前達の学園が抵抗した場合は交戦、生徒の生死を問わずなどとまで言って」


生死を問わず、などとはまた物騒だなあとタキは呑気に思う。

昔のような戦乱時代ならまだしも今の、穏やかな世の考え方としてはソアレの言っている事は時代錯誤もいいところだ。

タキは紅茶の入ったカップをカップソーサーに置く。


タキ「どうにかするしかないでしょ。ただ、君たちの誰かが余計な事をしそうではあるけども」


そう言ったタキの大きな眼鏡のレンズが光る。

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焦げた臭い。

血のついた剣。

誰かの嗤い声。

誰かの叫ぶ声。

…誰かの、命が消えた気配。

幼い頃、あの日の記憶がナイの脳内で繰り返される。

それでも前を見ようと顔を上げてきたつもりだった。

だが焼き付いた過去が離れない。

それでもナイは汗が滲む額を拭い、手の内にマギアアルマの杖を出現させる。

この状況をどうにか打破すべく、記憶に負けないとナイは立ちあがる。


ナイ「痛みも哀しみも、一緒に背負うと決めたから」


彼らとともに、背負うと決めたのだ。

決意し、ナイは立ち向かうべく杖を構えた。

食堂に歩み寄る気配に、戦うために。


大きな音が食堂に響き渡る。

いつも、皆と賑わっていた食堂の壁が爆発とともに破壊され、吹き飛ぶ。

ナイはフリージアを守るべく、彼女の前に立ち杖を構えて破壊された壁の方を見た。

破壊された壁の破片がテーブルや椅子にぶつかり倒れ、食堂は見慣れたいつもの光景からかけ離れたものになっていた。


大柄な男「お、ここが当たりか」


食堂の壁が破壊された時に出来た穴から大きな男が現れた。

身長もナイよりも遥かに大きく、身体も筋肉質。

鋭い目と顔の至る所に傷がある。

男の姿を見た時、ナイの背後のフリージアが目を大きく開いた。


フリージア(大人)「マルグ…!!」


フリージアは怒りのこもった声で大柄な男の名前を呼んだ。

マルグ、男の名前を聞いた時にナイの記憶が無理矢理こじ開けられる。

あの日、ナイは聞いた。

誰かが「マルグ将軍」と呼んでいた声を。


ナイ「あの人、太陽帝国の…、」


ナイは杖を強い力で握り締める。

食堂のテーブル席とナイとフリージアがいる厨房は距離がある。

ナイは術の詠唱を口にする。

杖の先の宝石が白い光りを纏う。

ナイは杖を振り上げる。

ナイの前に四つの紋章が展開された。紋章の色は青。

ナイは勢いよく、杖を振り下ろして魔法の名前を口にした。


ナイ「ブリザード・レイ!!」


四つの紋章が同時に氷の光線を放つ。

ナイの魔法は男に向かって真っすぐ飛ぶ。

だが…。

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襲い掛かってくる甲冑の兵士を気絶させて、イーグルはレオを連れて寮の廊下を走った。

レオは嫌な予感に支配された胸中を抱えてイーグルに連れられて走る。

自分達はかつて西の大陸の国の王族だった。

しかし、クーデターを起こされ王族は全て抹殺の対象。イーグルとレオは刺客に追われながらも城を脱出して森へと逃げた。

接近戦がほとんど出来ないレオはイーグルの足を引っ張り、二人は刺客に追いつかれた。

多勢に無勢。数多の刺客に囲まれたレオとイーグル。

その二人を救ったのがアレクスとロザリオだった。

救われ、レオとイーグルはこの学園に来た。

イーグルから深く関わるなと言われ、ロザリオ達もまた「自分達の厄介事に関わらなくていい」といっていた。

それを思い出して、レオはイーグルの手を掴んで立ち止まる。


イーグル「兄上?」


イーグルがどうかしたのかとレオに問うてくる。

レオは顔を俯かせ、下を見ていた。

…いいわけがない。

レオは思う。

この学園に来て様々な事と出会った。

ナイと、…友達にもなれた。


レオ「僕、ナイ達を助けに行くよ」


誰に何を言われても構わない。

この心にあるものが全てなのだとレオは思う。

レオは顔を上げてイーグルに言った。

ナイを、友達を助けに行くと。


イーグル「…兄上、解った」


イーグルは頷く。

レオに掴まれた手をほどき、イーグルはレオと手を繋いだ。

手を繋がれた感触にレオは驚く。

イーグルは柔らかな笑みをレオに向けて言う。


イーグル「行こう、兄上」


イーグルの言葉にレオは笑顔を浮かべた。

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いつか、私と彼の運命が皆に知られた時。

皆はきっと助けてくれる。

そう信じることが出来る人々に出会えた。

お母さん、私はお母さんが望んでくれた未来に向かって歩けている気がする。

今、心からそう思える。


レオ「今、行くからね。ナイ」


杖を握り、レオはイーグルと共にナイを探しに走った。

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ヴィオラは紫の髪を靡かせ、美しく魅惑的な足を巧みに使って兵士達を次々に沈めていく。

その背後を守りながらコウも応戦するが思わしくない状況にため息を吐きたくなった。


ヴィオラ「ちょっと、どういうことよ!」


突然の襲撃に頭に来たとヴィオラはコウに向かって声を荒げる。兵士を沈めながら。

女王様の苦情にコウはこっちが聞きたいと言わんばかりに死んだ魚の目をした。

建物の損傷が激しい。

それを見ただけでもコウの胃が痛みを発する。

校舎の外、入り口へと続く道。道は石畳で整備され、他にも手入れのされた植物が多数植えられている。

突然の爆発音と多数の気配にヴィオラと慌てて、外へと出て来たコウの視界には攻撃で破壊された校舎と寮。


コウ「誰が修理費出してくれるんだよ…、これ」


これ以上、学園の建物が破壊されれば修理どころの話しでは済まされないだろう。

新築など、たまったものでは無い。

そんなに裕福じゃないぞ、この学園の運営は…。

コウは声を大にして言いたくなった。

半分以上、放心状態のコウを見てヴィオラは呆れた。

後で考えなさいよ、と思いつつもヴィオラは何かの気配を察知してコウの首を掴んで振り上げた。

流石、人狼。力持ち。

軽々とコウの身体を振り上げてヴィオラはコウを遠くへ投げた。


コウ「ヴィオラ?!」


ヴィオラから数メートルも離れた位置に投げられ、地面に落下したコウは落下の痛みを感じながらも起き上がって遠くになってしまったヴィオラを見る。

ヴィオラはコウに背中を向け、敵と対峙していた。

声を上げてヴィオラは後ろのコウに言ってきた。


ヴィオラ「邪魔。あんたはニクスと合流して事の始末を考えなさい。…来たら、平手よ」


助けはいらない、来たらぶっ飛ばす。ヴィオラはそう言って対峙する人物と兵士をコウへと行かせまいと余裕を装うって笑う。

だが、そんな時こそヴィオラは本気なのだと彼女と長く戦地を共にしてきたコウは解っていた。

ヴィオラが対峙している、どこかの学園の制服を着た青年。

彼の纏う気は幾つもの戦いを切り抜けて来た者の目をしていた。

コウはここで格好良くヴィオラを助けられない自分を情けなく思うも、このまま呆然としていればヴィオラの足を引っ張るだけだと立ち上がって走る。

その気配を背後で感じながらヴィオラは笑みを浮かべたまま眼前の敵を見た。


???「…味方を逃がして残るか」


青年の冷たい声がヴィオラの耳に届く。

ヴィオラは表情を崩さなかった。

こんな危機感は久しぶりだと懐かしい記憶を脳裏に思い出す。


ヴィオラ「ふふ、いいわね。いつぶりかしら…」


泥にまみれ、血を浴びて。

ボロボロになりながら、戦い抜いたあの日々の記憶。

ヴィオラは拳を握り締めて敵へと挑んだ。

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大きな音が食堂に響き渡る。

厨房の器具が倒れる音と一緒にナイの身体も倒れる。

ナイを見た大人の姿のフリージアが悲鳴を上げた。


フリージア(大人)「ナイ!!」


先ほど放ったブリザード・レイは男には届いた。

しかし、男は背中に担いでいた大剣を抜き軽々とブリザード・レイを薙ぎ消した。

そして大柄な体躯からは想像もつかない速さで厨房に乗り込んできてナイの頬を殴った。

男は嫌な笑みを浮かべてフリージアを見る。


マルグ「散々、手を焼かされたぜ。フリージア」


男、マルグはフリージアへと歩む。

フリージアは立って男を見上げて睨みつける。


ナイ「フリージア…、」


倒れたナイは殴られた衝撃で霞む視界と頬の痛みに耐えながら、杖を離さず握っていた。

彼女、フリージアを二度と帝国に利用させるわけにはいかない。

気力を振り絞ってナイは上体を起こし、震える手で持った杖を男の方へと突き出した。

杖の先の宝石が光り、白の紋章を出現させる。


ナイ「ムーンライト、…レイ!!」


マルグとナイの距離はそう離れていない。

だが、マルグは横目で見ただけで嘲笑い。大剣を振り上げた。

ただ、それだけの動作でナイの魔法は消された。

ナイは目を大きく開く。

そしてマルグは犬歯を見せて笑った。


マルグ「月への信仰は死刑。…まだその魔法を使える奴がいるとはな」


マルグはフリージアから離れ、ナイへと標的を変える。

ナイは殴られた衝撃と倒れた時に身体を床に打ち付けた痛みで動けなかった。

マルグは剣を再び、振り上げる。


マルグ「死ね!!」


喜々とした表情で叫んだマルグの背後でフリージアが悲鳴を上げた。

ナイは唇を噛み締め、目を強く瞑った。

振り下ろされたマルグの剣の空を切る音が聞こえる。

誰かの体温を感じた。

その体温はいつだってナイを守ってくれた。

ナイとずっと一緒にいてくれると誓ってくれた人。

ナイは目を開けた。

視界いっぱいに映ったのは黒、学園の制服。

頭に、体温を感じる。

強く抱きしめられているのだとナイは理解したが、その拘束はすぐに解かれた。


ナイ「ア…レクス」


唖然と、ナイは呟く。

アレクスの身体が力無くナイへと倒れてきた。

ナイの視界いっぱいにアレクスの白銀の髪が映って。ナイはアレクスの背中に手を回しその身体を支える、背中に回した手がぬるりとした感触がして。

目を大きく開いてナイはアレクスが自分を庇った事を理解した。

すぐに怒りと哀しみがナイの中を満たす。

そして過去の記憶と今が重なり、ナイは目の前の男への憎しみで支配された。

体内の吸血鬼と魔力がナイの感情で暴走を始める。


ナイ「うあああああぁぁぁっっ!!」


ナイは獣の咆哮のような叫び声を上げた。

ナイの感情に同調して制服の下に隠されたナイのペンダントが強い光りを放つ。

強大な力の胎動が辺りに響き渡った。

だめ…!ナイ!

憎しみの感情でそれを使ってはだめ…!

誰かの声がナイの頭の中に直接入ってくる。

だが、今のナイには声の言葉など届かなかった。

図書室で紅茶を飲んでいたタキは膨れ上がる力の胎動を感じて深々とため息をついた。


タキ「やっぱり、そうなるか…。ほんと、帝国はいつも余計な事をしてくれる」


タキは呟き、紅茶が入ったカップをソーサーに置いて椅子から立ち上がった。

肩に乗っている丸い生物がぴょんぴょんと跳ねる。

タキは図書室を出る。

通信画面を開き、タキは操作しながら現状の把握を始める。

主にどこに誰がいるのか。

作業をするタキの前に幼いフリージアが飛び込んできた。


フリージア(子供)「助けて!ナイが、フリージアが!」


フリージアは涙を流して、懸命にタキに訴える。

タキは少女の涙を見て、彼女の前でしゃがみ目線を合わせた。


タキ「大丈夫だよ、フリージア」


フリージアを安心させるようにタキは笑みを作った。

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寮の自室でずっとふさぎ込んでいたアイスは異変に目を開けた。

ナイの強い哀しみが直に流れて来たのを感じた。

自分は何をやっているのか。

そう、自分の役目はナイを守る事なのに。


アイス「…ナハトの顔が、言葉が頭から離れない」


あの日の記憶の中での言葉がアイスをずっと、占めている。

けれど、それでいいのだろうか。

ナイは深い悲しみと憎しみを乗り越えようとしていた。

ナイは戦い続けていた。自身の運命と。

ならば、アイスの意志は…?

ナハトの言葉でなく、アイス本人の意志はどうしたいのか。


アイス「…私!」


アイスは立ち上がる。

そして、部屋のベランダへと繋がっている大きな窓へと向かい、開けた。

風が焦げた臭いを運んでくる。

アイスはベランダに出て、跳躍しベランダの塀に立って飛び降りた。


学園の入り口。

へしゃげた門の前で一人の青年が立っていた。

青年はへしゃげた門を見た後、学園の方を見た。青年の視界には壊れた校舎と戦っている二人。


???「…ここが、お前の」


澄んだ青の瞳が壊れた校舎をした後、青年は迷わず、壊れた門を通り歩く。

正面から交戦の音がする。

青年の足取りも目も迷いはどこにもなかった。 


第二十三話に続きます