第30話 互いの想い

西の大陸の端。

季節外れの吹雪が大地を白に染め、付近の村の住人は雪の影響で避難。

…寒いな。

この地に降り立った龍は思い、翼を広げて飛び立った。

西の大陸、辺境の地。

龍の記憶が確かなれば、雪とは無縁の地で冬でも穏やかな気候の地だった筈。

それが銀世界に染められ、あらゆる存在するものが凍り付いてる。

龍は空を飛び、目を細めて下を見た。

下の大地は雪に埋め尽くされ、草木は見当たらない。

吹雪で視界も悪く、龍はこれ以上は無理だと諦める事にした。


龍「…何が、起きているのか」


龍は呟く。

一先ず、クラウンに連絡を入れようと、龍は翼を広げて空を飛ぶ。

●●


銀の長い髪、金の瞳。

ナイは自分の前に立つ青年に目を見開く。

目の前に立つ青年の髪と目の色はロザリと全く同じ色で、ナイの本当の色でもある。

銀髪と金目は王族でも強い血統を現す。


アステルナ「…大丈夫かい?ナイ」


青年は柔らかな表情と微笑みをナイに向けて言った。

ナイは青年の姿を地面に座り込み、唖然と見上げる。

先ほどまで青年は、…少女だった。


ナイ「…え、エルちゃん?だよね…?」


ナイは戸惑いつつも聞けば、目の前の青年は頷く。


アステルナ「長い間コールドスリープに入っていて。…目覚めれば記憶は無いし、力の使い方を忘れてたり、片方の姿も取れなくてね」


青年は笑い、ナイに手を差し伸べる。

ナイは差し伸べられた手を数秒間、見つめ青年の手を握った。

そこで気づいた青年の手が血で汚れているのを。

先ほど、エルトレスはナイを庇って肩を飛んできた剣で負傷したのだ。

ナイは治療しなきゃと青年に言う。


ナイ「エルちゃん、肩の治療を…」


青年の手を握っている手とは反対の手におさまっているマギア・アルマの杖を握り、ナイが言えば青年は「平気」だと言った。

青年は地面に座り込んだままのナイを、繋いだ手を引っ張って起こす。

剣に貫かれた肩は血に濡れ、真っ赤に染まっていたが至って本人はけろっとしている。


アステルナ「大丈夫。ロザリオ程の年月を重ねた吸血鬼(ブラッディロード)では無いけど、俺は魔界の最深部に住んでた人の直子だからね。これぐらいはすぐに塞がるよ」


青年の話しにナイは首を傾げる。

ナイの様子に青年は「ああ、そうだった」と一人納得した。


アステルナ「あまり、月の一族について聞いてなかったんだっけ?」


青年はナイに聞く。

ナイは聞かれた言葉に何度も首を縦に振って頷いた。


ナイ「必要最低限の事しか聞いてません。一族の歴史の事とかも、聞いてなくて。…でも、この間アステルナ様の事を聞きました!」


アステルナの名前を言った時、ナイは嬉しそうに笑った。

逆に青年は眉間に皺を寄せて形だけ笑う。


アステルナ「よりにもよって愚王の事か…。あの巫女…」


青年は複雑な心境を感じる。

きっと、自分の後には素晴らしい王がいたはずなのに、何故誰も教えてないのか。

青年は眠りに入った後の事は簡易なものしか聞かされていないので、実際どんな王がいたのかは知らない。

しかし、青年の自己評価とは別にナイは怒った。


ナイ「愚王なんかじゃありません!アステルナ様がいたから、アレクスが今ここにいるんです!」


アステルナがエーデルシュタインを保護しなければ、世界には今頃エーデルシュタインは消え、アレクスもどうなっていたかは解らない。

少なくとも、こうして運命を共にはしていないだろう。

ぷんすか怒るナイに青年は照れたのか顔を赤に染めて、自分よりも身長の低いナイの頭を撫でた。


アステルナ「ナイ、ありがとう。当時は愚王だなんだと言われてたから嬉しいよ」


青年は言い、ナイは頭を撫でられながら首を傾げる。


アステルナ「…私が月の国の三代目国王アステルナだ」


彼の、アステルナの名乗りにナイはこれでもかというほど大きな声を出して驚いた。


ナイ「えええええええええええ!!?」


ナイにとって、それは衝撃だった。

月の国の三代目。

つまりナイにとっては遠い祖先の様なものだ。どれ程遡れば、アステルナにたどり着くのか。途方も無い程の…。


●●

エルトレス…、アステルナの衝撃発言に驚いたナイは「え?え?!」とアステルナの言葉を頭の中で受け入れられずに、あたふたと挙動不審になる。

遠い昔の先祖が突然現れた衝撃。

ナイの混乱を想像し、アステルナも苦笑した。


アステルナ「突然で、驚かせてしまったな」


ナイの混乱は最もだ。

本来、そんな昔の祖先が現れるなど考えもしない事なのだ。

アステルナは申し訳ないとナイに思うが、ナイは青い瞳で真っすぐにアステルナを見つめた。


ナイ「驚きました。でも、会えて嬉しいです… 」


幼い頃に、ナイの肉親は全て失われたのだと思っていた。

ロザリはナイに血の繋がりがあるとは一言も言っていなかったが、ナイは気づいていた。

そして、アステルナと出会い。

自分にはまだ、血の繋がった誰かがいてくれるのだとナイは安堵する。

…それは、アステルナも同じ気持ちだった。

だが、吸血鬼(ブラッディロード)の気配は二人の出会いを早々に壊す。


アステルナ「…どうやら、人形の主が来たようだ」


赤く、強い気配が結界内に広がり、支配する。

アステルナは金の目を細めて空を睨み付けた。

吸血鬼(ブラッディロード)の結界内にある風景は偽物。

左手にマギア・アルマの剣を現出させ、アステルナは剣の柄を握りしめる。


ナイ「アステルナ様」


ナイは眉を下げ、不安そうな表情を浮かべてアステルナの名前を呼ぶ。

呼ばれたアステルナはナイの方へと向き、綺麗な笑みを浮かべた。

…王としての揺らぐことのない自信に満ちた。

ナイはアステルナを目に映して思う。

…何と言われようとも、この人は王だ。

誇り高く、民と国を守ろうとした王なのだ。

ナイは目を閉じる。

そして、目を再び開く。

その瞳には澄んだ青は宿っておらず、ナイの瞳はアステルナと同じ色が宿っていた。


ナイ達と同じく、吸血鬼(ブラッディロード)の結界内へと閉じ込められたロザリアは走っていた。

街を真似て作られた結界内。ロザリアは整備された石畳の上を走り、どこからか飛んでくる火球を即効の防御魔法で防ぐ。


ロザリア「いい加減にしなさいよね!」


ロザリアは次々と飛んでくる火球に腹が立った。

飛んできた火球を全て防ぎ、ロザリアは頭に来たと詠唱破棄をした氷魔法を放つ。

青に発光した紋章から数多の氷柱が発射される。

ロザリアが発動させた氷魔法は飛んでくる火球を撃ち抜き、建造物に当たる。

しかし、魔法が当たっても建造物は壊れず形を保っていた。

ロザリアは心の内で舌打ちした。

建造物を破壊すれば、魔法使いの位置をあぶりだせるのに。

ロザリアはとにかく、同じ位置に留まらないように走り続けた。 


ロザリア「もう、めんどいわね!」


ロザリアは腹立たしい気持ちを出し、次々と飛んでくる火球をかわしつつ走る。

背後で爆音がするが構っている余裕は無い。

敵はロザリアの消耗を狙っているのか、遠距離攻撃のみで接近戦を行っては来ない。

ロザリアはどうしたものかと攻撃をかわし、走りながら考える。

…先ほどから攻撃魔法を使って来ている魔法使いの場所が解ればいいのだが…。

流石、力の強い吸血鬼の結界だ。

結界は魔法だけではびくともしない。

こちらがブラッディブレイドを使用すれば結界を強引に突破することが出来るが、ロザリアには自身のブラッディブレイドの使用を躊躇う理由がある。

…ロザリアは自分のブラッディブレイドを制御できない。

防御で使用する分には可能だが攻撃に転換した時だ。ロザリアのブラッディブレイドは世界そのものを壊しかねない強大な力を放ってしまう。

制御に全神経を使えば使えない事も無いのだが、使用一回でぶっ倒れるのだ。

後先考えずに使える代物では無い。


ロザリア「…さて、どうしたものかしらね」


溜息を吐き、ロザリアは走るのを止めた。

複数の殺意が今もロザリアを射抜かんと向けられている。

…だが、こんなところでやられるのは真っ平だ。

ロザリアは拳を固く握り締める。

しかし、ロザリアの想いを嘲笑うように結界の内側が大きく変動を始める。


ロザリア「吸血鬼(ブラッディロード)の力…!」


ヴェレッドロードの吸血鬼の力と殺意がロザリアに向くb。

気づいたロザリアは殺意と力を感じる方向へと向く。

結界の内側、偽物の空が赤く染まり力の余波が空全体に広がった。

余波の中心に、空に浮く人物をロザリアは睨み付けた。


ヴェレッドロード「……」


赤紫の髪の青年が空に浮き、赤い剣を手にしていた。

…ヴェレッドロード。

ソウマを手に入れようとしていた男が冷酷な眼差しと共にロザリアに完全な敵意を向け、手に握り締めた剣に力を集めていた。

ロザリアはヴェレッドロードを睨み付け、今にも強大な力を振り下ろさんとする男へと立ち向かう。


●●

北の大陸の宿泊施設。

アレクスとアサギの部屋に来ていたソウマはタキに詰め寄っていた。


ソウマ「タキ、どういうことなの?ロザリアに何かあるかも知れないって…」


ソウマは眉を下げ、不安そうな表情を浮かべてタキの腕を掴む。

詰め寄られたタキは外側からは瞳が見えない眼鏡をかけているため表情が読み取りにくい。だが、口をへの字にしているので困っているようだ。

…ソウマはそれどころでは無かった。


タキ「…いや、あの、ね」


いつもはっきりと物言うタキも珍しく言いよどむ。

ソウマに掴まれた腕が痛み、タキは力強いなあと頭の隅で考えつつも一回深呼吸してソウマに聞いた。


タキ「ソウマ、そっちが素?」


タキの質問にその場が沈黙した。

…あ、そこ聞いちゃうの?

タキの質問に周囲で様子を見守っていた他の連中が思う。

言われたソウマ本人は目を大きく開いて唖然としていた。


ソウマ「……俺は、」


ソウマは小さな呟きを吐く。

まるで自分を確かめるような…。

その様子を眼鏡のレンズ越しに見ていたタキは深々と溜息を吐いた。

何というか、無理をしているような感じだな、とタキは思った。

ソウマの震える長い銀の睫毛、揺れるエメラルドグリーンの瞳を見てタキは「美人だなあ」と素直に思う。

確か、アーティストとして活動を始める前の経歴がほとんど不明だった、と先の件で桜華のメンバーを調べていたのだ。まあ、この外見じゃあ本人に聞くまでも無いが。

…エーデルシュタイン、エルフ、それと同じように天から落ちてきた天上の民には高値がつくことがある。

ソウマの清廉な雰囲気と天上の民特有の高い魅了の力。

持って生まれた魅了の力が他者を惹きつけ、彼を手に入れようともがくだろう。

しかも、ソウマは誰が見ても綺麗だと思うほどに。

誰とも知らぬ者の欲望を押し付けられてきたのだろう。

そういった経歴を辿り、アーティストになって…。

考え、タキはソウマに同情した。


タキ「別に隠さなくてもいいんじゃない?…君、若いんだし」


タキは言って、ソウマから視線を外す。

…ロザリアは気づいていたんだろう。

だが、あれもまたミトラスの事を未だ引きずっている。だから、安易にソウマに踏み込めずに躊躇うのだろう。

タキはここがいい機会かもしれないと思った。


タキ「ソウマ、話しが大いに変わるけど君がこの先もロザリアと一緒にいるには覚悟がいるよ。特に君がロザリアに特別な感情があるなら」


…人間の感情とはとても面倒なもの。そして、感情から成り立つ人間関係は複雑に絡み合い。それは良い変化も悪い変化も起こす。

自分の言葉でソウマとロザリアの関係がどんなものになるかは正直、タキは解らない。

それでも、知っておいた方がいいだろう。


クラウン(……)


タキの言わんとしていることを察したクラウンは何かを思う。


タキ「ロザリアは想ってる人がいる。…それは今もこれからも変わらない」


眼鏡の奥でタキは目を伏せた。

少女だったロザリア。あの頃、彼女は何も悩みの無い少女を装っていた。

だが、ロザリアの近くにいたタキは知っていた。彼女の苦しみ、悲しみを。

…ディアナは愛されていた。しかし、望まれた存在では無かった。

そのディアナにミトラスは光のような存在だったのだろう。

…自分の闇を照らしてくれる、唯一の光。

ミトラスの存在はロザリアの中で強く残り、彼はロザリアの中で決して消えない。

彼女には決して消えない傷を残した男がいる。

ソウマはそれを理解し、覚悟を決めなければロザリアとこの先も一緒にいることはできない。

タキの言葉を受けて、ソウマは目を閉じる。

…銀の長い髪、金の瞳。未だ、少女のようなあどけなさを残したロザリアの姿が脳裏に描かれる。

ソウマは目を開けて、唇を動かす。


ソウマ「…俺は、」


答えはもう出ている。


●●

血が滴り落ちる。

激しい痛みが全身で叫びを起こし、ロザリアは激痛に表情を歪ませる。

二の腕を赤い剣の刃が刺さっている。

ロザリアは刺さっている剣と、その剣の柄を握る男を睨む。


ヴェレッドロード「…魔法使いの弱点といえば、間合いだろうな」


吸血鬼(ブラッディロード)の男が言った。

そう。魔法使いは懐に入られた瞬間、敗北を意味する。


ヴェレッドロード「…それを克服し、お前は接近戦もこなせる脅威の存在だ」


ヴェレッドロードは薄く笑う。

その目も唇も勝利を確信している、とロザリアは感じる。



ロザリア「ブラッディブレイドを放って寵姫の魔法とともに突っ込んでくるとはね…。流石に捌き切れなかったわ…」


ヴェレッドロードはブラッディブレイドの力をロザリアに放ち、彼の寵姫による魔法を防御魔法で防いだまでは良かったが、ヴェレッドロード本人がまさか突っ込んでくるとは…。

防御魔法を使用している最中、横からの剣撃。

ヴェレッドロードは真っすぐにロザリアの心臓を狙ってきた。

しかし、心臓よりはと連続の剣撃の中でロザリアは横に体をずらしてほぼわざと腕を貫かせた。

ヴェレッドロードの殺意は本物だ。

…どんな手を使ってでもロザリアを排除しようとしている。


ヴェレッドロード「私はお前を全力でやるつもりだ、全属性魔法使い」


ヴェレッドロードは握っているブラッディブレイドの柄に力を込める。

ロザリアの腕を貫いていたそれを引き抜き、ロザリアは痛みに眉を寄せた。

血が地面を濡らす。

…次は確実に心臓を。

ヴェレッドロードの敵意をロザリアは受け止め、答えた。


ロザリア「…ソウマは渡さない。私が守る!」


ロザリアは声を上げた。

ソウマはずっと誰かの欲望を押し付けられてきたのだ。

…私だけはソウマを自由に。

それもまたロザリアの勝手な想いなのだが。

それでも、とロザリアは痛みに耐え、戦うことを選ぶ。


自分の中で涙を流す誰かに誓って。


●●

ロザリアはヴェレッドロードのブラッディブレイドの刃に刺されていない方の腕を向け、拳を打ち付けた。

ブラッディブレイドとヴェレッドロードは打ち付けられた拳の一撃の重さに耐えられずに、動きは鈍くなる。

その瞬間、ロザリアは光魔法を自分とヴェレッドロードの間に放って小さな爆発を起こした。

すかさず、後退してヴェレッドロードと距離を取る。

ロザリアは真っすぐに立つ。


ロザリア(万が一を考えて、腕の回復は後回しにするべきよね…)


傷の手当はこの戦いが終わってからでいい。

ロザリアは苦笑する。


ヴェレッドロードの張った結界内。

偽物の街の建物の一つ。その屋上に立ってヴェレッドロードの寵姫が鈴を転がしたように笑う。


イオリ「ブサイク。隙だらけだよ」


ヴェレッドロードの寵姫は片手に赤の紋章を浮かばせ、ロザリアを見つめた。

主に恥をかかせ、傷まで負わせた女を許さない。

寵姫の憎しみと殺意は真っすぐにロザリアへと向いていた。

感じる強い殺気。

ロザリアは自分の頭部を手の平で撫でる。

…恨まれてるわねえ。


ロザリア(挟撃かー…)


どうしよっかな。

そう思っても敵は考える時間はくれない。

ヴェレッドロードのブラッディブレイドの力を片手で受け止めるのはさすがに無理だ。

だが、それでは背後の寵姫からの攻撃魔法を防げない。

防御魔法は壁のように前方の攻撃を防いでくれるものとドーム型のものがある。

自分を覆うドーム型のものなら全方向を防御できるだろう。

できるが、ヒトの集中力というのは全方向にはいかない。

強い力なら尚更。

ロザリアの思考を遮り、ブラッディブレイドを構えたヴェレッドロードが勝利を確信した笑みを浮かべて言う。


ヴェレッドロード「…考え事をしている余裕など無いぞ?やれ、イオリ」


イオリ「はい、ヴェレッドロード様」


ヴェレッドロードのブラッディブレイド、彼の寵姫の高位魔法が同時に放たれる。

前方にはブラッディブレイドの強大な力、後方からは寵姫の放った人を易々と飲み込むほど大きな火球。

ロザリアは唇を噛みしめ、二つの攻撃の打開策を考える。

…迷っている時間は、無い。


ソウマ「ロザリア!!」


不意に聞こえたソウマの声と自分を包む誰かの温もりにロザリアは目を大きく開いた。


二つの力が迫りつつある中で、飛び込んできたソウマはロザリアの名前を呼び。ロザリアの身体を抱きしめた。


ロザリア「…ソウマ、どうして?」


まさか、来るとは思っていなかったロザリアは唖然と呟く。

ソウマの温もりに僅かに頬を赤に染め、ロザリアは目を閉じた。

先程、ヴェレッドロードのブラッディブレイドに貫かれた方の腕から伝う血が手の中に流れるのを感じる。

腕を回復しなかったのは血が必要だったからだ。

…自分のブラッディブレイドを現出させるための。


ロザリアの身体を抱きしめて、ソウマは小さく言う。


ソウマ「ロザリア、話したいことがあるんだ」


ソウマの綺麗な銀の髪が瞼を上げたロザリアの瞳に映る。

その髪の色がとても懐かしくてロザリアは頬を緩めた。

…運命は繰り返される、か。

ロザリアは胸中で呟く。

それでも、今度こそ。


ロザリア「私も、話したいことあるの」


ロザリアの手の中に赤い剣が現れ、ロザリアは柄の部分を握りしめた。

迫りくる、ヴェレッドロードと寵姫イオリの力。

ロザリアは目を再び閉じて二つの力を感じ…。


二つの力がロザリアとソウマにぶつかる直前に切り裂いた。

二つの力は切り裂かれて、爆発し消滅した。

ヴェレッドロードと彼の寵姫も驚きを隠せず、目を大きく開いた。


ヴェレッドロード「馬鹿な…?!」


イオリ「そんな…、ヴェレッドロード様の力が…!」


驚愕する二人を他所に爆発の煙から出てきたのは片腕にソウマを抱いたロザリオだった。


ロザリオ「…流石に高位の吸血鬼(ブラッディロード)を相手に出し惜しみは無理だったか」


片腕にソウマ、もう片方の手には己のブラッディブレイドを握ったロザリオは銀の髪を揺らし、息を吐いた。

…できればブラッディブレイドを使いたくは無かった。

しかし、相手は吸血鬼(ブラッディロード)の中の吸血鬼(ブラッディロード)。

ロザリオは諦めることにした。


ソウマ「…あ、ろロザリオ…」

ロザリオの片腕の中のソウマは顔を真っ赤に染めてロザリオの名を呼ぶ。


ロザリオ「ん?」


ソウマ「君、どうしてそんなにカッコいいの…」


顔を真っ赤にしたソウマの言葉にロザリオは柔らかな表情を浮かべた。


ロザリオ「その質問は答えに難しいな」


ロザリオの返しにソウマは両手で口を覆い、「かっこいい!」と小声で悶えた。

ソウマの悶えっぷりにロザリオは「本当にこっちの姿、好きなんだなー」と心の中で思い、苦笑した。

…さて、終わらせるとしようか。


ブラッディブレイドの柄を握りしめたロザリオは鋭い眼差しを前方に立つヴェレッドロードに向けた。


第31話に続きます