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コウとキリヤの攻防は続いている。
コウの拳がキリヤを攻めるが、キリヤは表情を変えずに受け流す。
その様を少し離れた場所で見ていたエルトレスは首を傾げて、ヴィオラを見た。
何か言いたげだとヴィオラが「何?」とエルトレスに聞くと、エルトレスは周囲がびっくりするような発言をした。
エルトレス「ソレール・アームズって何?」
エルトレスの発言に周囲にいたヴィオラ、クラウンは勿論、ソウマも「え?」と固まった。
ロザリアだけは対して驚かず、レモンイエロー髪の化石ぶりに苦笑していた。
ヴィオラは悲鳴じみた叫びを上げる。
ヴィオラ「ええええ!?今時の主流武器を知らないって何時の時代の人間よ!」
推定何千年も前の時代の人です。とはロザリアは言えなかった。
あくまでヴィオラはエルトレスを現代で生まれ育った、エルヴァンス家の元メイドという認識だろう。
だが、クラウンもソウマもエルトレスの言葉には思うところがあった。
…さすがに、無知すぎる。
クラウンは思うが、エルトレスはいつもの呑気な笑みを浮かべた。
エルトレス「あ、あはは~」
だって、僕の時代には無かったからなあ…。
エルトレスは胸中で思うも口には出さなかった。
…エルトレスがアステルナとして国を治めていた時代、魔力武器と武器となるヒトが主流武器だった。
王として軍事に関わる以上はあらゆる世界の流れを知らなければいけない。
まあ、今は王では無いからなあ。
エルトレスは胸中に思った言葉を留めて、はてと首を傾げる。
今という時代に魔力武器は伝わっているのに、もう一つの武器はどうなってしまったのだ?と。
クラウンなら知っているだろうが、それを聞いて自分の出身年代がバレるのはまずい。
何せ、クラウンは先文明、楽園の時代から生きているのだ。
下手に言えば気づかれてしまう。
だが、エルトレスの考えなどクラウンは敢えて聞かず、エルトレスに簡易の説明をした。
クラウン「…ソレールアームズは近代太陽帝国が生み出した武器じゃ。精密な機械部品で出来ているが魔力と合わせることも出来る武器でのう」
クラウンの簡易説明にエルトレスは頷いて、興味深げに聞く。
その光景をキリヤと戦闘しつつ、視界の端で見ていたコウが声を上げた。
コウ「おおい!呑気だな!!」
何て緊張感のない。
呑気に武器講座を開くクラウンとそれを熱心に聞くエルトレスにコウは泣きたくなった。
そんな二人を見てタキは「大体、うちのメンバーなんてそんなもんじゃん」と特に気にせず、コウへの補佐を続けている。
だが、タキの補佐を借りてもキリヤを抑えるので手一杯のコウの脇を二つの影が駆けていった。
狙いは後方にいるロザリア達だ。
だが、コウもタキも気にはしない。
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コウの横を駆けて通った二つの影。
それは黒い髪の青年とブロンドの巻き毛のボインだ。
二人の狙いは後方にいるロザリア達だ。後方はクラウン、ソウマ、エルトレスの三人は非戦闘員でロザリアは体力回復で戦える状態じゃない。
後方を抑えれば、戦闘系を無力化出来る可能性は高い。
だが、そんな事は始めから予想が着く。
後方の四人のもとに辿り着く前に、二人を抑える奴は決まっている。
イシュ「…また会ったな」
黒い髪の青年が後方の四人に辿り着く前に、青年の前に立ちふさがったのは双剣を手にしたアイス。
アイス「…貴方を通す気は無い」
アイスはアイスブルーの瞳で青年を見た。
初めて会った時から、青年は得体の知れない存在だと直感が言っていた。
彼は何れ、主ナイと友であるロザリア。仲間達の脅威となるかも知れない。
アイスは双剣を構えた。
…ここで抑える。
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紫色の癖のある長い髪と金の目。
頭に生えてる銀の狼耳は誇り高き銀狼としての証。
豊満な胸を揺らし、ヴィオラは口角を上げて綺麗に微笑む。
ヴィオラ「ふふ、私の出番ってとこかしら?」
髪を指先で梳いて払い、ヴィオラは胸の前で腕を組んで敵と対峙する。
彼女の敵はすぐ目の前で槍を構える騎士。
ブロンドの美しい巻き毛の髪の美女。制服からでも解るスタイルの良さと、構えた槍、左腕についたバックラー。
姫騎士。その言葉が相応しい女性がヴィオラが対峙する敵。
サルビア「わたくしはV・リリイ隊のトップアタッカー、サルビアと申しますわ」
サルビア、と名乗った姫騎士は雪が積もった地面を強く踏み込み、槍の刃先をヴィオラに向けた。
瞬く間もなく、サルビアは地面を蹴りヴィオラへと突進するように跳ぶ。
なかなかの速度だ。
ヴィオラは評価し、サルビアの槍に正面から立ち向かう。
ヴィオラ「先ずは小手調べってとこかしら?」
言ってヴィオラは自分に向かうサルビアの槍の柄を片手で掴んだ。
…初見の敵に小手調べ。
考えが甘い、とヴィオラは槍の柄をへし折る勢いで掴み自分の脇腹あたりに引き寄せた。
人狼の怪力に引っ張られ、サルビアは地面に向かって体勢を崩す。
サルビアは驚き、目を見開く。
だが、次の瞬間にはヴィオラの膝がサルビアの顔面へと撃たれる。
重く鈍い音と共にサルビアは後方へと吹っ飛び、積もった地面の床に叩きつけられた。
タキ「うわあ、容赦ない…」
ヴィオラの容赦の無い攻撃を見ていたタキは引きつった笑みを浮かべる。
タキの言葉を拾い、ヴィオラは優雅に笑う。
ヴィオラ「ふふ、直前に左腕のバックラーで防御してたから平気よ」
ヴィオラは雪の中に倒れるサルビアを視界に入れる。
サルビアは積もった雪の上で仰向けで倒れていたが、外傷はほとんど無い。
ヴィオラは唇に指先をあてる。
ヴィオラ「左腕のバックラーからシールド系魔法が入れてあるわね。人狼の力でも外傷がほとんどない。…なかなかな逸物の槍とバックラーねえ」
ヴィオラの言葉を少し離れた位置で聞いていたエルトレスはやっぱり呑気な声で言った。
エルトレス「すごーい!それもソレールアームズの力?!」
瞳を輝かせてエルトレスは子供のようなはしゃぎを見せる。
エルトレスのはしゃぐ声にコウはずっこけそうになるが堪えた。
コウ「ちょ、緊張感!」
コウの胃は確実に痛みを訴え始めている。
…何なの、この子?!
コウは泣きたい気持ちになったが、エルトレスは尚もはしゃいでいる。
キリヤ「……」
コウと相対しているキリヤは鋭い眼差しでため息を吐いた。
どうやら、緊張感なくはしゃぐエルトレスに呆れているようだ。
無知でアホな子がはしゃいでるようにコウとキリヤには見えるだろう。
だが、タキは胸中で思う。
タキ(このぐらいの戦いじゃあ、三代目陛下の精神は乱されないだろうなあ)
狂気とも呼ばれたアステルナ陛下の強さ。
彼は生涯の殆どを戦いと己を鍛える事に費やしたのではと月の一族の王家では語られていた。
自国の刺客を返り討ちにし、国が攻められれば自ら前線に出て戦った防衛の要でもあったとされる。
初めて聞いた時、タキはそんな無茶苦茶な王はいないだろうと盛られた話だと思った。
だが、事実アステルナは国を守り通したのだ。
…そこまで考えてタキは三代目陛下の人生に興味を持った。
だが、今はそれどころではない。
タキはエルトレスに言った。
タキ「エル、後で僕が君にソレール・アームズの解説をするよ。どうやら、君のはしゃぎで未熟なコウ君はすぐに集中が切れちゃうらしい」
タキの言葉にエルトレスは表情を輝かせ、はしゃぐのを止めた。
だが、タキの嫌味にコウは「タキ、てめえ」と低い声で言ったがタキは気にもしなかった。
エルトレスはにこにこと嬉しそうな表情でタキに声をかけた。
エルトレス「約束だよー?タキ君」
約束!と笑う、無邪気なエルトレスにタキは笑って返す。
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二クスは後方の四人を守る為にそれぞれ、少し離れた場所で相対しているコウ、アイス、ヴィオラ同様に後方から離れた場所でヴィルシーナ学園Sクラスの青年と対峙していた。
離れているといっても何かあれば後方にすぐに向かえる距離だ。
そして、二クスが相対しているのはキリヤに瓜二つの青年。
ヴィルシーナ学園のSクラスの連中は世界的に有名だ。
それこそ学園で生徒やってる者で知らない者の方が珍しい。
二クス(確か、キリヤの双子の弟、だっけ?)
二クスは相対しているアーシェルがどう動くか警戒する。
記憶が確かなら、アーシェルは剣型のソレールアームズを使用する筈。
アーシェル「お前、エーデルシュタインか」
警戒する二クスにアーシェルが驚いた表情を浮かべる。
アーシェルの言葉に二クスは眉間に皺を寄せた。
二クス「そうだけど」
エーデルシュタイン、アーシェルに言われて二クスは顔を顰めた。
…だから何だよ。
二クスの表情を見てアーシェルは深く息をつく。
アーシェル(やりづらいな…)
アーシェルは双子の兄、キリヤの姿を脳裏に思い浮かべる。
キリヤは母と同じエーデルシュタインだ。
エルヴァンス家は当主の意向も有り、エーデルシュタインは保護の対象だ。
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皆に守られ、後方にいるロザリア達。
未だ、ロザリアの顔色は悪く、思うようにならない体にロザリアは額から汗を滲ませて焦りの表情を見せる。
地面に膝をつくロザリアの身体を支えるソウマは眉を下げ、ロザリアの身体を抱きしめた。
エルトレス「…空間の歪みが。大きな鼓動が聞こえる」
ソウマとロザリアの傍に立ったエルトレスが呟く。
傍に立ったエルトレスの表情を見てソウマは首を傾げた。
不思議そうなソウマの表情に気づいたエルトレスはロザリアと共に膝をつくソウマを見下ろして笑みを浮かべ、ソウマに言った。
エルトレス「なるべく私から離れないでね」
目を閉じて微笑むエルトレスを見た後、ソウマは何気なく周囲を見た。
周囲にうっすらと淡い白い光の粒子が漂っている。
ソウマはエルトレスを見た。
彼女はどこ吹く風だ、といつものにこにこした表情を浮かべている。
だが、それを見ていたクラウンは扇子で自分の口を隠して思う。
クラウン(結界か…。展開範囲内に防御と治癒効果を出している。しかも周囲には解らないように隠しているのか)
恐らく至近距離でなければ視えないだろう。
ブラッディブレイドを撃てるようにロザリアの身体を癒しているのだろうがそれでも防御も一緒に張っている。おまけに結界が解らないように隠している。
魔力量が無ければ出来ない上に周囲に隠す技術まであるのか。
クラウンはエルトレスを見る。
クラウン「エルトレス、お主は本当にただのメイドかの?」
エルトレス「ほえ?」
クラウンの問いにエルトレスは間抜けな返事をした。
クラウン「ただのメイドにしては魔力の扱い方が素人とは思えぬ技術力だのう 」
クラウンは確信めいた言葉と共に目を細める。
扇子で口を隠したクラウンをエルトレスは見つめてきた。
エルトレスはにっこりと笑った。
クラウンとエルトレスの妙なやり取りを聞いていたアイオは深いため息を吐いた。
アイオ「腹の探り合いしてる場合か」
アイオのつっこみに緊張感の無い二人は誤魔化す様ににこやかな笑みを浮かべた。
だが、アイオも思う。
エルトレスの魔法を使う技術は相当な修練を積んだ者のそれだ。
…今考えても仕方ないかとアイオはすぐに考えを変え、ロザリアを見た。
エルトレスの結界のおかげでロザリアの顔色が先ほどよりも幾分か良くなっている。
ロザリア「…状況はどんどん悪くなっているわね」
それでもまだ立つ力が出てこないロザリアが何かを感じ取って呟く。
奥の方、ナイ達が向かった方向から強い気配を感じる。
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吹雪を抜け、山の中にあった大きな穴から洞窟内に入ったナイ達は身を寄せて先を進む。
杖を握りしめ、異質な力を持つ空間の干渉から皆を守る為に防御魔法を展開したナイを中心にし慎重に一行は歩く。
洞窟内は岩と石を中心に形成され、ところどころ人工物が見える。
遺跡と思わせるような物が多い。
ナイの後ろを歩くレオが辺りを見回して言う。
レオ「…何かを信仰していたのかな」
所々、倒れている石で出来た柱や瓦礫に掘られた石を見てレオは不安そうに眉を下げた。
先頭で前方を警戒するアレクスが辺りを見て興味なさげにレオの疑問に答える。
アレクス「昔、自分たちの創り上げた空想の存在を信仰していた集団もいたらしい。そいつらが創った隠れ家みたいなものが風化したんだろ」
アレクスは言葉とともに眉間に皺を寄せる。
そういう集団が生贄と空想の存在に捧ぐのはエーデルシュタインやエルフだった。
思い出したくない記憶だと、ざわつく心中を抑え込みアレクスはその後何も言わなかった。
レオはアレクスの様子からまずいことを口にしてしまったと思う。
昔、アレクスが二クスと共にそういう輩によく狙われていたのだとコウが言っていた。
捕まったことは何度もあって、その度にロザリオが救い出していたのだと。
レオ「…ごめん、アレクス」
レオは謝罪した。
アレクスは僅かに後ろに振り返る。
アレクス「俺はいい。生きているからな 」
言ってアレクスは前を見た。
…昔、きっと語られないだけでアレクスも二クスも悲しい記憶があるのだろう。
レオはアレクスの言葉でそれに気づき、胸が締め付けられる苦しみを感じた。
アサギに支えられて歩くナイが後ろを歩くレオの方へと振り返る。
ナイ「ごめん、レオ。場所が悪かったみたい」
アレクスに聞こえないように小さな声でナイはレオに言った。
レオは力無く「…うん」とナイに返事をしたが、先ほどナイの言葉をしっかり聞いていたアレクスは不味い物を食べさせられたかのような表情を浮かべた。
…アレクスは対人関係は器用な方では無い。それこそコウのような柔軟さが時として羨ましいと感じるほどには。
こういう時はどう言えばいいのか。そう思うアレクスの背中を後ろで見ていたナイはアレクスの背中を肘で小突いた。
ナイに背中を軽く小突かれ、アレクスはナイへと振り返った。
優しい眼差しをしたナイはアレクスの目を真っ直ぐに見て、微笑む。
そのナイの微笑みがどっかの銀髪金目の面影が重なって見えたアレクスは母親に注意された子供のような拗ねた気分を味わった。
…そういうのは得意じゃない。
アレクスはナイに目で訴えるがナイは有無言わさない笑みを浮かべたままだった。
アレクス「…レオ、」
アレクスは敵わない、と諦めてレオと向き合って声をかけた。
…レオと向き合って気づいたがイーグルが自分に鋭い眼差しを向けていたのだ。
ここでちゃんとレオに言っておかないと後でイーグルに決闘を挑まれていたのかと思うとアレクスはナイに感謝した。
拳を握り締めて、アレクスはレオに言う。
アレクス「さっきは俺も悪かった」
まあ、端から見ててもアレクスもレオも別に悪くは無いのだが。
だが、言動には気を遣わねばならないとナイは教育されている。それは勿論、彼らに育てられたアレクスも同じだろう。
…自分の放った言葉、それは相手の受け取り方にもよる。自分は責めていなくとも相手からしたら責められていると感じさせてしまう事もある。
アレクスの言葉を受けて、レオは微笑む。
レオ「僕こそ、ごめんね」
眉を下げ、レオは謝罪の言葉を口にし頭を下げる。
…誰にでも思い出したくない記憶はある。
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心臓が脈打つ音が辺りに響く。
大きな洞窟内に遺された過去の建造物は既に時間の経過とともに崩れ、瓦礫となっている。
洞窟の最深部、広い空間には祭壇が置かれていた。
祭壇の上には黒い、大きな繭が鎮座している。
繭から無数の糸が伸び、糸が洞窟の上部に付着し繭を支えていた。
聴こえた大きな心臓の音は繭から。
祭壇の傍に立っていた一人の男が歓喜の声を上げた。
マツ博士「あああ、美しい!これが破滅への始まり!!」
男は目尻から涙を流す。
その涙の意味は本当に破滅への歓喜か。それとも、後悔か。
もう男も己の感情など解っていないのだろう。
辺りは既に冥界という未知の干渉を受けている。魔力を持たない者には空間干渉を避ける手立ては無いに等しい。
…男の心は既に壊れてしまっているのだ。
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何かの強い気配がナイの感覚を襲った。
ナイの視界が突然、揺らぐ。
足から急に力が抜けナイは隣にいるアサギの方へと倒れた。
すぐに気づいたアサギがナイの身体を受け止める。
アサギ「ナイ様?!」
自分の方へと倒れて来たナイの腰に腕を回し、アサギはナイの身体を片手で支えた。
ナイの手から握っていた杖が落ち、ほとんど岩でできた地面に落ちる。
アサギの焦りを含んだナイへの呼びかけと杖が落ちた音にアレクスもナイの方を見た。
アレクス「ナイっ!!」
アサギの支えられているナイの頬に手のひらをあて、アレクスはナイの名前を呼ぶ。
だが、ナイは青白い顔色をし目は焦点が合わずここでは無い何かを見ているようだった。
ナイの張った結界も解けている。
アレクスはナイの心配で胸中いっぱいだったが直ぐに指示を出した。
アレクス「レオ、結界を頼む。イーグルは補佐してくれ」
アレクスの指示にレオとイーグルは頷く。
レオはすぐに自分のマギア・アルマの杖を現出させ結界魔法を唱え周囲に展開した。
アレクス「ナイ…」
アレクスはナイ頬を手のひらで撫でた。
そんなアレクスの頭の上にのーたんが乗っかった。
ナイが倒れた時にナイの懐から飛んだのーたんは丸い目を細める。
のーたん「エルトレスに通信を繋げるの」
アレクス「おい、 エルトレスに今のナイの状態が解るのか? 」
のーたんの申告にアレクスはツッコむ。
まあ、最もな疑問だ。だが、のーたんは既にあのぼけぼけな主がタダ者では無いと確信しているので問答無用でアレクスの疑問を無視しエルトレスと通信した。
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吹雪の中、ヴィルシーナと交戦する最中。後方にいたエルトレスは「あ」と声を上げた。
今までのーたんとの契約上の繋がりとうっすらとナイ達の事が見えていた。
まあ、命に関わる傷を負ってるかそうでないか見てはいたが、はっきりとしたものでは無かったのだが。
しかし、のーたんがエルトレスとの繋がりを深くしたことでエルトレスの視界に映る光景が一瞬で変わった。
先程まで吹雪の中、交戦する仲間達だったものが暗い洞窟内部でアサギに支えられているナイの姿へと変わったのだ。
エルトレス「…ナイ、倒れたみたいね 」
のーたんの視界に映る光景がエルトレスに同じものを見せている。
エルトレスの口に出した言葉にロザリアとクラウンが反応した。
クラウン「なんじゃと?」
クラウンは片眉を上げてエルトレスを見た。
冥界の空間干渉で電子系統の通信と魔力通信が繋がりにくい。
エルトレスはのーたんとの感覚共有で個人的に通信が出来る。
クラウンはエルトレスに詳細を聞こうとしたのだが…。
クラウンとエルトレスの間に黒い液体が雪の積もった地面から飛び出て来た。
クラウン「魔界の欠片じゃ!」
クラウンはすぐに後方へと跳ぶ。
飛び出て来た黒い液体はすぐに人の形を取って、後方へ跳んだクラウンよりも近い距離にいるエルトレスを狙って動いた。
エルトレスの傍で膝をつくロザリアが魔界の欠片を迎え撃とうと立ち上がろうとした。
だが、ロザリアの目に一閃の光が見えた。
…それはエルトレスを狙う魔界の欠片を斬ったのだ。
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第三十九話に続きます