第3話 闇の鼓動(後編)

刃があちこち欠けてしまい、とても戦闘に使えそうにもない。

アサギは愛刀の有様に肩を落とす。

その肩を慰めるようにナイは手を置く、ヴィオラは二人を見てきょとんと不思議そうに首を傾げた。


ヴィオラ「タキに見てもらえば?」


だって、あいつ得意じゃない?

ヴィオラの言葉にナイははたと気づき、早速タキを呼びに走り教室を出てった。

ロザリオは一息つくと、ヴィオラとアサギに背中を向ける。


ヴィオラ「ロザリオ、授業は?」

場を立ち去ろうとするロザリオを呼び止めたヴィオラだが返ってくる言葉は大体、解ってる。


ロザリオ「必要ない」


短く、それだけ言ってロザリオは教室から出て行った。

ヴィオラは「やれやれ」といった様子で苦笑し、アサギの方に視線をやれば彼は困惑している。

ロザリオのあの態度ではしょうがないか。アサギは温室育ちらしいとコウから聞いている。

ヴィオラは口を開こうとした時、


アサギ「ロザリオさんって素敵な方ですね!ヴィオラさん」


アサギの反応はなかなかに予想外なものだった。

…大物になりそう。ヴィオラは何となくだが、特に確証持たずに素直に思った。

案外、器が大きい子なのかも知れない。目を輝かせるアサギの横顔を見てヴィオラはもしかしたら、とも。

アサギがナイを受け止めてくれる唯一になってくれれば。

あの子の運命を支えてくれる人になってくれれば、なんて。

身勝手だがヴィオラは心の内で静かに願う。

●●

タキを呼びに廊下を走るナイをロザリオは静かに呼び止めた。

ナイは立ち止まり、ロザリオへと振り返って向き合った。

朝の廊下、だがこの学園は生徒数も多くはなく任務や研究などに行っている者もいるので学園自体に人がいない。

廊下は静かだ。

ナイはロザリオの顔を見た。

相変わらず、ロザリオはあまり笑わない。ロザリアはよく笑うのに。

無愛想で不器用、ナイが改めて思う中。口を開き、言葉を声にしたのはロザリオだった。


ロザリオ「俺は、お前を自由にはしてやれなかったな」


突然の言葉。だが、ナイには言葉の意味が解った。

自由。それは父親がナイに願った我が子の未来。しかし父親はこうも願っていた。

…戦うな、とも。

とても戦いにむく性格ではないのは自分でもよく解っている。

今の自分がギリギリ戦場に立っていられるのは目の前のロザリオや仲間達がここまで育ててくれたからだ。

…選択する自由。仲間達はくれた。

ナイ自身に何を背負うか、どうするのかを選択させてくれた。

首を横に振って、ナイはロザリオに返す。 


ナイ「ロザリオ、僕は後悔してないよ」


戦う道を選んだこと。


ナイ「いつか、全部を思い出して。皆が背負ってるものを僕も一緒に背負うから」


それは、あの頃から変わらない気持ちだ。

右も左も解らない頃、皆の背中を見てナイは思った。

本来、自分が背負わなければならないものを代わりに。

…背負わせてしまった。

ナイの想いを言葉に聞きロザリオは解る人に解るほどの小さな笑みを浮かべた。


ロザリオ「ああ、待ってる」


あんなに小さかった子供はいつの間にか大きくなっているのか。ロザリオはナイの頭を撫で、その成長を喜んだ。

●●

ロザリオとの会話後にナイは別れてタキのいると思われる図書室に向かった。

電子と魔法の文明が発達したこの世界には情報というものは電子側に縮小され、そこに接触して閲覧する。

パネルの役割は電子側と魔法側に接触する時の媒介だ。

ちなみにナイ達は仲間との連絡は魔力での通信で取り合っている。電子側でも通信が出来るのだがセキュリティ対策が面倒なのだと満場一致で魔力での通信にしている。

基本、通常の人間の何倍もの魔力量を有してる者達なので魔力で生活してるようなものだ。

授業で電子側のことも扱えるように習うのだが今一、理解出来ない。

アサギは編入してくるまで電子側を多用してたらしく、初めはとても驚いていた。

そうこうナイが考えながら歩いていると、図書室の隅の方で椅子に腰を下ろしているタキを見つける。


ナイ「タキ。アサギさんの武器見て欲しいんだけど…」


ナイが声をかけ、タキのすぐ隣へと近づく。

タキはパネルを操作して何かを閲覧しているのか、視線はパネルに釘付けだった。

ナイは「何見てるの?」とタキのパネルを横から覗き込む。

特に驚く様子もなくタキはナイに言った。


タキ「今日の授業の資料。どっかの腐女子が沈黙の儀式をリクエストしてくれたもんで資料集めを先生から頼まれてね」


腐女子、ロザリアのことだ。

日頃から恋愛に性別は関係ないと豪語する彼女は同性での恋愛にある種の憧れを持ち、よく「そういう趣向の本」を愛読している。

それはそうと魔界の欠片との戦闘の時、ロザリアは意味深に「沈黙の儀式」について口にしていた。

ナイの隣で大げさなため息をついたタキはメガネの位置を指で直して言葉を吐いた。


タキ「沈黙の儀式は秘匿情報多くてね。公開されてる情報から説明しなければいけないからちょっと面倒なんだよね」


タキの言葉を聞き、ナイは純粋な疑問を持った。

タキ達は随分と長命で世界の色々な過去を知っている。


ナイ「タキは沈黙の儀式のことどこまで知ってるの?」


疑問をぶつけたナイはタキの顔を見る。

多分、全容を知ってるのだろう。公開されてる情報から何が秘匿なのか。

タキは資料を見ながらそこを判断してるのだろう。

ナイの想像通り、タキは唇に一指し指を当てて。唇を三日月にし、笑む。

…あ、やっぱり知ってるんだ。

ナイは察し、唇を引きつらせて苦笑する。

ああ、そういえば。とタキはナイの顔をまじまじと凝視し。 


タキ「アサギの武器見て欲しいんだっけ?」


そう言われてナイは慌てて、アサギの武器を見て欲しい旨を伝えればタキは快く承諾してくれた。

●●

教室にタキを連れていけば、コウとヴィオラがアサギと楽しそうに談笑していた。

ナイが教室に入り、アサギの席に行けばすぐに気づいたアサギがふんわりと穏やかで優しい笑みを浮かべた。

まるで控えめに咲く花のようだ、とナイは自分の頭に熱が集まるのを感じた。

ナイの赤い顔を見てタキとヴィオラは何かを感じ取り、二人には聞こえないよう小声で囁き合う。


ヴィオラ「ナイにも春がねえ…」


ヴィオラはしみじみと言う。それに同意を込めた頷きをするタキとよく解ってないコウ。

首を傾げてコウは「どういうことだ?」とタキとヴィオラに言えば、二人に思いっきり大きなため息を目の前で吐かれた。


コウ「な、何だ。二人して」


え?え?と困惑し、尚もよく解っていないコウにヴィオラとタキは思わず。

…コイツ、鈍いにもほどがあるだろう。

二人の心の内は見事に同調(シンクロ)した。

あと恋愛に難ありそうだなあ、とも。

そんな鈍いコウと呆れ気味のヴィオラとタキにナイは気にもせず、本題を振った。


ナイ「タキ、アサギさんの刀なんだけど…」


ナイは言葉とともにアサギの顔を見る。

アサギは鞘から抜いた刀をタキの前に差し出し、見せる。

タキはアサギの刀を数秒見、


タキ「太陽帝国発のソレール・アームズ型の武器。確かに、僕でもその辺のソレール・アームズなら調整できるけど」


タキは首を傾けた。眉尻が下がり、口は笑っているが困っているようにも見える様子で言葉を続ける。


タキ「この刀は無理だね。東の大陸の、かなりの腕の職人が造った刀とみえる」


申し訳ないけど、タキは言葉を締めてアサギに謝る。

アサギは少し残念そうに唇を笑みの形にし、眉を下げる。

接近担当(アタッカー)にとって武器が無いのは流石に辛い。

だが、残念ながら。


タキ「刀を造れる職人は南大陸だと十人も満たないし、ほとんどが国のお抱えだからねえ」


タキは「んー…」と顎に手を当てて、少し悩む。

話を聞いていたヴィオラは口を尖らせて呟く。


ヴィオラ「ソレール・アームズって不便ねえ。アサギもマギア・アルマにすれば?」


職人のメンテナンスも要らないから、楽よぉ?とヴィオラが言えば、アサギではなくコウが首を横に振る。


コウ「マギア・アルマは魔力量が要求されるだろ」


マギア・アルマ、ソレール・アームズ。両方共に武器の名称である。

職人の手で造られ、職人の調整で使用者に丁度良く扱えるのがソレール・アームズ。成長武器とも言われる。

マギア・アルマは使用者の魔力で構成される武器の名称だ。職人など要らないからメンテナンスの必要は無いが使用者の状態が反映されてしまう上に魔力が切れれば武器の形成を保つことは出来ない。

使用者にとって低コストがソレール・アームズ。保有している魔力量によってだが、なかなか高コストなのがマギア・アルマ。

因みに、ナイはソレール・アームズとマギア・アルマの両方を持っているが本命武器はマギア・アルマだ。

ナイはアサギに一つ提案した。


ナイ「アサギさん、念のためにマギア・アルマを習得してみてはどうですか?」


ナイの提案にアサギは目を丸くし、少々驚いた様子を見せた。

更にナイは話を続ける。


ナイ「魔法を使えるならマギア・アルマいけると思うんだけど…」


ちらっとナイは同意を求めるようにタキを見る。

タキは引きつった笑みを浮かべて、ナイに返す。


タキ「確かに、アサギの実力なら習得は十分に出来るけど。本人次第だよ、ナイ」


どうするかは本人次第。タキはそう言った後に「僕からも提案があるんだけど」と前置きして、


タキ「修理に東の大陸に行ってみようか?」


首を傾げて言うが提案、というよりも決定事項ではないのかとコウは頭を抱える。

誰が申請すると思ってるんだと胃の痛みを感じつつもコウは諦めの一息をつく。

●●

午後の授業後に東の大陸に行くことになった。

クラス総出で行くことになり、コウは申請に職員室や申請局に届け出を出しに行っため午後の授業はコウを抜きにして行われた。

授業の内容は「沈黙の儀式」についてだ。

 

「件が起こったのは今から約二百年前。魔界の欠片の異常体が発見され、そこから始まりました。首謀者は当時、生物学の権威…ヴェルヴェリア博士と言われてます」


初老の男性教師が自分の前に表示された画面(パネル)を見て説明をする。

二百年前、ナイが遭遇した魔界の欠片と同じ進化する異常体だった。事態は国連の一つ、南大陸の強国。太陽帝国の数名が事態を収めたと伝えられている。


「件についてはそのほとんどが明らかにされず、首謀者のヴェルヴェリア博士の自害で幕をおろしてます」


教師はここで一旦、説明を止めタキを呼ぶ。

タキは自身の席から立つとパネルを操作し、教師から引き継ぐ形で説明を続ける。


タキ「この事件で国連は多数の犠牲者を出したらしい。それがヴェルヴェリア博士の起こした進化する魔界の欠片によるものなのかは情報制限につき明らかになっていない」


ヴェルヴェリア、そう呼ばれた権威が何をしようとして進化する魔界の欠片を産みだしたのかは定かではない。

ナイとアサギがこの授業で理解したのは進化する魔界の欠片が誰かの手によるものでなければ発生しない、ということだ。

アサギはもう一つ気になった。


アサギ「タキ様、何故国連は情報を秘匿扱いに?」


二百年前、というもこの世界においては長命な種族も存在している。

二百年と歳月が流れても当時から存命していた者は多い。だが、そんななかで事件の風化は厳しい。

詳しい内容を知ってる者など案外、近くに存在しているだろう。

アサギの質問にタキは唇を引き、笑みを浮かべてあっさりとした回答をした。


タキ「模倣犯がでると困るからだねえ」


更にタキはこうも続けた。

長命な種族には勿論当時を知る者は多い。国連は対策として情報の扱いは電子側でのみにし、それを破れば国連が総出で身元を割り出し処罰されるという。

つまり、この授業内容も国連には筒抜け。特に授業に関してはパネルを使ったものはセキュリティを設けることは規則外である。

だが、電子側は国連にも管理できるが魔力によるやりとりは国連の管理外。

魔力での個人同士のやりとりを管理するのは不可能だ。

タキの説明に納得したアサギは質問に回答してくれたタキに礼を述べた。


アサギ「回答ありがとうございます」


タキ「どういたしまして」


模倣犯が出ては困る、ということは魔界の欠片の異常体を創るのは案外容易いことなのでは?とナイは考えたが質問はしなかった。

情報がかなり秘匿扱いされているならタキが答えられる範囲はかなり狭いだろう。

授業は45分を使って終了した。

ナイは授業後の休憩時間に一息つき、席から動かずのんびりとしていた。

そこに一人の少女が来た。柔らかな栗色の髪の少女がナイの席の前に立っている。

彼女の名前はリーリエ。

長命な龍族の少女で外見に似合わず、ナイよりも遥かに年上。

リーリエは唇を引き、笑みを浮かべている。


ナイ「リーリエ、どうしたの?」


ナイはリーリエの顔を見る。

彼女はナイに顔を近づけ、


リーリエ「ナイ、沈黙の儀式がそう名付けられたのはヴェルヴェリアが禁忌の存在を魔界の欠片を通して呼び出してしまったからなの」


秘匿されてるであろう事を告げて来た。

…禁忌の存在?ナイがリーリエに小声で聞けば、彼女は不可思議な言葉をナイに教えた。


リーリエ「聖杯は血に満たされ、禁忌の存在が呼び出される」


リーリエの発した言葉にナイは困惑し、首を傾げるも。一応は魔法使いの一端でもあるナイは考える。

…禁忌の存在。呼び出してはならない存在。

聖杯?何かの器だろうか。器ということなら、つまり肉体という解釈もできなくはない。

ナイは「うーん…」と更に考える。

リーリエは小さく、ふふ…と笑い。


リーリエ「国連が今回の首謀者を見つけられなかったら悲劇はまた繰り返されるの」


首謀者?ナイはコウがローゼ村で捕らえた少女を思い浮かべて、リーリエを見る。

あの少女は首謀者ではないのか…。

リーリエはナイの言わんとしてることを察し、「あの子は違うわね」と答えた。


ナイ「彼女が違うなら、じゃあ首謀者は…誰なんだろ」


ナイの独り言に近い呟きにリーリエは。

…執念の塊よ。そうナイに告げる。

●●

本日の授業が全て終わった後、コウとロザリアは準備もほろほろに学園のオーナーに呼び出されていた。

オーナーの執務室は最低限の資料をしまう棚と机が置かれている。

部屋の主は滅多にこの執務室に足を踏み入れない。

何故かというと学園のオーナー自身がこの学園の生徒として活動しており、ここの教師は常に雇い主の視線の内にいる。

コウはクラスメイト兼学園のオーナーの執務室の中に用意された客用のソファーに腰を下ろし、ロザリアは執務室を興味深く探索している。

普段なら弁えてるところは弁えてるロザリアはオーナーとは旧知の仲なので意気揚々と探索してる。


ロザリア「エロ本ないねえ」


目を輝かせてロザリアは棚の後ろを見ている。

あってたまるかとコウは言いたいがロザリアの奇行にツッコミをいれるとキリがない。

落ち着かない様子のロザリアを放置していると二人を呼び出した本人が執務室に入ってきた。廊下を繋ぐ扉から入った来たということは校舎のどっかにいたのか。

コウは入ってきたオーナーを見る。

相も変わらず、みかんの被り物を頭に被っている。頭から下はやや細身の男性なのだが…。

楕円の形をしたオレンジ色、つぶらな瞳の変な被り物を被っている。怪しさ満点、不審者系の彼こそがこの学園のオーナー。

本名は不明だ。被り物が東の大陸の果物みかんなので皆からみかんと呼ばれている。

みかんはコウの向かいにあるソファーに腰をおろす。


みかん「東への渡航と滞在申請は受理したよ」


被り物の中から高めの男性の声が聞こえる。

コウは「ありがとう」とみかんに感謝の言葉を告げる。

…この学園の位置する場所は南大陸のわりと端。その昔はとある国が建っていたのだが国の滅亡とともにみかんが大金とともに学園の敷地範囲を帝国相手に購入したらしい。

滅亡した国が治めていた領地はこの学園の範囲外は全て太陽帝国と呼ばれる強国の領土となっている。

南大陸事情は複雑である。

そして、その南大陸からよその大陸に行くには渡航と滞在申請を向こうにする必要がある。

申請先は基本、学校と南大陸の申請局と渡航先大陸の申請局だ。

…で、オーナーが呼び出した要件はなんなのか。

申請の受理の結果報告だけでオーナーが呼び出してくるわけがない。

コウはみかんのつぶらな瞳をじっと凝視した。


コウ「で、要件は何だ」


コウはみかんに聞けば、みかんは頷き。宙に指をスライドさせて画面を出す。

学園用の電子側画面だ。プライベートな用では無いらしい。


みかん「実は、とあるアーティストの護衛任務が来ててねー」


みかんが画面を操作している、それを見たロザリアが特に隠しもせず。

…わ~、めんどくさいと声にして言った。

討伐任務と護衛任務、どっちが楽かと聞かれれば討伐任務のが楽だと3-4の奴らは言うだろう。理由は色々とあるが、最大の理由は3-4の連中の魔法は基本的に月の魔法が武器でもあり治療系も月魔法が主力だ。

現在のこの世界において、月への信仰はほとんど禁忌に近い。信仰の恩恵である月魔法を扱える者は場所によっては処刑対象だ。

太陽帝国で使おうものなら裁判なしで処刑台直行コースである。

皆の安全を考えるなら、護衛任務はコウ的にはお断りしたいのだが…。


コウ「そのアーティストの護衛任務、他の学園は?」


他の学園が受理してるのならお断りしよう。

そう思ってコウがみかんに聞けば、みかんからの返答は…。


みかん「勿論、他の学園も参加するらしいんだけどアーティストを狙ってる相手が悪くてね」


…相手?

特定の者に狙われてるのか、とコウが考えればロザリアが口を挟んできた。

敵は誰、とロザリアがみかんに聞く。

問いにはっきりとみかんは言い放つ。


みかん「上位の吸血鬼だよ」


みかんの言葉に反応したのはロザリアだった。

ロザリアは胸の前で腕を組み、ため息をつく。

オルビスウェルトの世界において吸血鬼は強い種族と認知されている。

不死ともいえる長命、他者を支配する魅力と強い力。吸血鬼には彼らしか扱えない武器がある。

己の血で創られた専用の武器。ブラッディブレイド。

その吸血鬼の潜在能力次第では高い破壊力があるといわれる。

上位ともなれば相当な威力のブラッディブレイドの持ち主だろう。

みかんは画面に護衛対象のアーティストの写真を表示し、コウの前に画面を移動させる。

コウの後ろから覗き込むロザリアとコウは画面に映し出されたアーティストを確認する。

二人から出た感想は同じだった。

…これは狙われる。


コウ おう、吸血鬼が好みそうな…」


言ってコウがロザリアを見れば珍しく頬を赤くして画面を凝視していた。

画面に映っているのは紫色と青色が混じった神秘的な銀の長い髪とエメラルドグリーンの美しい瞳。

長い睫毛、陶器のような白く滑らかな肌。

美しい外見を好む吸血鬼にはドストライクな美青年が画面の中にいた。

現役吸血鬼のロザリアの反応が良い証拠だろう。


みかん「ロザ、受けてくれたらコンサートチケット融通するよ?」


ここで学園オーナーとしては受けて貰いたいみかんがロザリアに直接交渉をかけてきた。

現役吸血鬼なら敵の吸血鬼に対して有利に動けることもある。

それにアーティストの護衛任務なら学園に回ってくる恩恵もそれなりだろう。学園のオーナーとしては是非とも受けて欲しい。

しかし、コウはまったをかける。


コウ「いやいや、俺ら東の大陸に行くんだけど?!」


流石に声の音量を上げて主張するコウだがみかんの反応は冷静だった。


みかん「大丈夫だよ。彼のツアーは今回東大陸だから」


みかんは拳をつくり親指を立てコウの前に突き出す。

…初めから拒否権なんてないのかよ。コウが内心で思いながらも護衛依頼とその他の依頼を受理することとなった。

アサギの武器直しと観光を兼ねて行くつもりが仕事が入り、これはヴィオラが怒る。

顔色が白くなり肩を震わせるコウにみかんは良い笑顔を浮かべてると思わせる喜々とした声音で言い放った。


みかん「よろしくね!」


涙目のコウが悔しさに声を上げ、嘆く最中。ロザリアは画面に映る青年を見て首を傾げた。


ロザリア (しかし、何で天上の民が地上に…?)


●●

昔、滅んだ国の跡地ともいえるこの場所はナイにとっては故郷にあたる。

国が滅んだのはナイが産まれるずっと前。けれど、妙な安心感がいつもナイを包んでくれていた。

ナイは目を閉じて、想う。

…どうか、皆を守ってください。

目から落ちる熱いものを拭うこともなくナイはオルビスウェルトが禁ずる月に願いを送る。

●●

第四話に続きます。