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西の大陸、マイナスエネルギーの発生地点。異常気象で猛吹雪となっていたその場所は元の穏やかな機構の土地に戻っていた。
とある学園の一行はロザリアとエルトレスが重傷を負い、ルナも身体の負荷を危惧される。レオはルナの身体を抱き締めた。
友を失ったルナは涙を流し、レオに身体を預けている。
ルナの事はレオに任せておいた方がいいだろうと判断したアレクスはニクスとイーグル、三人で今後について話をしていた。
そこにヴィルシーナ学園のアーシェルが来た。
アーシェル「親父から連絡があった。そっちのオーナーとの交渉を経て、お前達の保護を指示された」
アーシェルから告げられた言葉にニクスは「はあ?!」と驚きの声を上げる。アレクスとイーグルはため息を吐いた。
アレクス「あの野郎、まるでこうなるのが解ってたみたいだな」
アレクスの呟きにイーグルは同意して頷く。
あの野郎…、とある学園のオーナーのみかんは先んじてヴィルシーナ学園のオーナーと交渉して、保護と治療の為の医療設備を押さえたのだろう。
現在、とある学園は先の襲撃で建物が損壊し、工事中だ。なら、ヴィルシーナ学園の医療設備を使わせて貰おうとみかんは交渉したのだろう。
重傷者が出ると踏んで。
イーグル「…みかんの予想通り、ロザリアとエルトレスは身体の負荷が深刻だからな」
ブラッディブレイドの三回使用で倒れたロザリアは現在、パールの治療を受けているが危険な状態だ。
エルトレスも身体の内部に相当な負荷がかかっており、先ほど龍化したリーリエの背中で血を吐いて倒れていた。エルトレスはキリヤの治療を受けているが、目を覚まさない。
禁断の聖女はエルトレスの王剣ムーンライトの力とルナのブラッディブレイドによって相当なダメージを負った。そこにロザリアのブラッディブレイドが禁断の聖女を倒し、こちらと繋がった冥界を閉じた。
エルトレスもロザリアも深刻なダメージを負ったがルナは身体ダメージが二人に比べて少ない。
リーリエ「ルナのダメージはどっかの王様が昔仕込んだ月の石の防御システム起動のおかげで軽減されたのねえ」
消耗と疲労で立てないが喋ることはできるリーリエが荒い呼吸と共に言った。
座るリーリエの横に、涙目のウサギが長い耳を垂らして三角座りしている。
リーリエの事が心配なのだろう。
一行の話しは最初から興味無いアーシェルは咳払いをした。
アーシェル「指示されたからには一緒に来てもらう」
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ヴィルシーナ学園。北の大陸に建てられ、世界中の優秀な生徒達が通っている。学園の規模は一つの都市とも言われる程。
設備も施設も最新の技術が使われている。
最新の技術。つまり医療設備も…。
移動魔法で西の大陸から北の大陸に移動し、ヴィルシーナ学園の医療センターにロザリアとエルトレスは運ばれた。
ロザリアとエルトレスの治療はリーリエとタキが受け持った。
医療センター内の治療室を借り、二人の治療が行われてる扉の前でソウマは扉を見つめていた。
ソウマ「ロザリア…」
治療室の内部には立ち入れないソウマは祈ることしか出来ない。
ロザリアの一刻も早い回復を…。
ロザリアとエルトレスの治療が行われる最中、別室を提供されたルナがベッドの上で横たわっていた。
ルナは潤む瞳と心を隠して、瞼を閉じている。皆は優しいから、弱い自分を受け止めてくれる。
でも、とルナは眠った。
アサギ「ルナ様…」
ルナが眠るベッドの横に用意された椅子に腰掛け、アサギはルナの手を握った。フリージアを失った哀しみをルナは悟られまいと振る舞っている。
アサギはルナを想い、目を閉じた。
その二人の様子を壁に背を預けて見守っていたアレクスはルナの身体カルテに目を通して呟く。
アレクス「月の石の防御システムの起動…」
そんなもの起動したのは誰なんだ。
今、そんな事が出来るのは月の一族の王族であるロザリアかルナの筈。だが、ルナはまだ若い。ロザリアも力はあるが、月の石を使う事は出来ない。
…ロザリアとルナ、二人と同じ色の髪だったエルトレス。突然現れたエルヴァンス家の元メイド。
歴代の月の王でも手に出来た者が少ない王剣。
それを平然と使い、冥界の存在すら貫いて見せた。
ならば、月の石の防御システムを起動したのはエルトレスと見て良いだろう。
アレクスはエルトレスの姿を思い出す。
アレクス(一体、何者なんだ)
クラウン曰く、王剣を手にしていた時点でエルトレスは過去の月の王の中の誰かだという。
アレクスも長いこと月の一族の王族に関わってきたがエルトレスの事は知らない。あの様子からすればコウも知らないのだろう。
なら、自分が生まれるもっと前の王なのか…。
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エルトレスは目を開けた。視界に真っ白な天井が映り、周囲を確認しようと首を動かした。
顔を横に向ければベッドの上で眠っているロザリアが視界に入り、エルトレスは急いで上体を起こした。
頭の中が気持ち悪い感覚でいっぱい、視界も揺れている。
エルトレスは構わず、ベッドから降りて重い身体を引きずりすぐ隣のベッドで眠るロザリアの傍に歩み寄った。
エルトレス「…呼吸は、」
ロザリアの首に手を当て、呼吸と脈を感じエルトレスは安堵の息を大きく吐く。
顔の血色も良く、体温もある。エルトレスは治療が間に合ったかと喜び、立っていたが力が抜け崩れ落ちて冷たい床に座り込んだ。
扉の向こう、複数の気配と靴音が聞こえエルトレスは扉を一度見たが慣れた気配なのですぐに扉から視線を外した。
扉を開ける音がして、悲鳴が飛んでくる。
リーリエ「きゃああああぁぁ!エルトレス!」
珍しく焦ったリーリエの悲鳴がエルトレスの耳を直撃した。
リーリエの後ろには紙袋を抱えたタキとリーリエの制服の袖を握ったみっちゃんが立っており。タキはひきつった苦笑を浮かべ呆れた。
タキ「あんだけ、内臓にダメージ入っていた上に神経と血管に傷を負ってたのに動き回るのはロザリアとそっくりだよね…」
やっぱり、血族か…。タキは呟き、エルトレスの方へと歩む。
そう離れた距離では無いから、すぐにタキはエルトレスの目の前に来て、座り込んだエルトレスに向かって手を差し伸べた。
エルトレスは差し伸べられたタキの手のひらを見つめ、タキの顔を見る。
エルトレス「……」
言葉無く、エルトレスはタキの顔を見つめる。
そんなエルトレスにタキは首を傾げた。どことなくエルトレスが困惑してる様子なのを感じ取ったタキは、扉の方に立っている背後のリーリエへ振り返る。
タキの視線の意味に気づいたリーリエはエルトレスの様子を見て、「そっかー」と一人納得した。
だが、それではこの場の空気の解決にならないとリーリエは笑って言う。
リーリエ「エルトレス、大丈夫よ。仲間なんだし」
リーリエの言葉にエルトレスは頷き、遠慮がちの動きだがタキの手を握った。
エルトレス「…記憶喪失の時は平気だったのに、もっと楽に頼れたのに」
小さな声で呟かれた言葉が聞こえたタキは柔らかい笑みを浮かべる。
タキ「慣れてないんだね、」
言葉を口にしてタキは思い返す。アステルナ王は自分の打ち出した政策で、臣下からも刺客を向けられ命を狙われていた。
家臣達も国を守る為に王を亡きものにしようとした。アステルナは国とエーデルシュタイン達を守ろうとして…。
きっと、王だった頃はアステルナを理解し味方してくれる者は僅かで、アステルナは誰かを頼れる身でも無かった。
タキ「やっぱり、似てるよ。ロザリアに」
自分の友であり、主であるロザリアを見てタキはため息と共に言った。
似てる、と言われたエルトレスは首を傾げる。…ロザリアの歩んだ人生をエルトレスは知らない。
エルトレスの疑問に答えようとタキはさらに言葉を続けようとした。
だが…。
ロザリア「恥ずかしいからやめてちょーだい」
ロザリア本人の声に遮られた。
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ヴィルシーナ学園の会議室のひとつに通されたコウ、クラウン、イーグル、ニクスは先に来ていたオーナーのみかんとヴィルシーナ学園のオーナーと対面した。
シエル「ようこそ、ヴィルシーナ学園に」
ヴィルシーナ学園、シエル・エルヴァンスは美しい笑みと共に委員長達と握手を交わした。
シエルと握手を交わした後、委員長達はそれぞれ用意された席に座る。
円卓を挟み、シエルと向かい合う形で。
自身の席に腰をおろしたシエルはにこにこと人の良さそうな笑みを浮かべていた。
コウ「単刀直入に聞くが、ヴィルシーナ学園とどういう取引をしたんだ?」
コウは隣の席に座るみかんに視線を送った。
それに気づいたみかんは相変わらずの被り物で表情は見えないが、声質に込められた感情は特にどうというものでもなく…。
みかん「簡易に言うなら、西の大陸救済の手柄と引き換えに皆の保護を…、かな」
みかんの返答にコウは「そうか」と返して納得した。
クラウンは通信画面を空間表示させ、ため息を吐く。
クラウン「これからどうするのじゃ」
クラウンの言葉にみかんは呑気に「どうしよーかなー」と言った。それを聞いたクラウンは更に大きなため息を吐く。
イーグル「…あと数週間もすれば寮は建て直しが終わるだろう」
校舎はともかく、寮さえ建て直しが終われば任務活動は出来る。イーグルの答えにヴィルシーナ学園オーナーが口を挟んできた。
シエル「ああ、それなんだけど」
シエルはとても良い笑顔を浮かべた。
その笑顔にニクスとコウは謎の悪寒を背中に感じる。
ヴィルシーナ学園オーナーは笑顔とともに信じられない言葉を放った。
シエル「此方で差し押さえさせてもらったよ」
シエルの放った一言にコウとニクスは顔を合わせた。
みかんは呑気に「さて、どうしようかね」と呟く。
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ソウマをヴィルシーナ学園の治療センターを歩き回っていた。
頭の中にあるのは血を吐き、尚も立とうとしていたロザリアの姿。ブラッディブレイドを手にして、ロザリアは冥界と繋がったあの場を斬った。
冥界との繋がりは消え、禁断の聖女以外の大きな力は現れずに済む。
ソウマは何もできなかった自分に怒りを感じ、血を吐いても立つロザリアに哀しみを感じて沈む。
生徒1「ねえ、君」
誰かの声がソウマを呼び止めた。
ソウマは背後から聞こえた声に反応し、振り返る。ソウマの背後には水色と白が使われたヴィルシーナ学園の制服を着た男が四人。
だが、男達は清浄なイメージのヴィルシーナ学園の制服とはかけ離れた下劣な笑みを浮かべて立っていた。
何となく、ソウマは嫌な予感がして男達から距離を取ろうと踵返して足を踏み出す。
しかし、男達の一人の手がソウマの手首を掴む。遠慮なく掴まれた手首が痛み、ソウマは男達を睨み付けた。
男達は睨まれたというのに口々に勝手な事を言い始める。
「おい、本当に男かよ。すげえ、美人じゃん」
「そこらの女なんか比較にもならねえよ」
「キリヤ・エルヴァンスも美人だがこいつも良いな」
…男達は楽しそうにソウマを評価する。
ソウマは男達の言葉に寒気がした。この男達はソウマを男だと思っていない。過去、自分を欲しがった者達のように…。
だが、ソウマに抗う術は無いに等しい。
ソウマ「離せ…!」
強い口調でソウマは言い、掴まれた手首を振りほどこうともがく。
…情けない。ソウマは男達よりも、男達に大した抵抗も出来ない自分に腹が立った。
男達とソウマがもめるなか、治療センターの廊下に誰かの走る足音がソウマの耳に届く。
ロザリア「ソウマーーーーーっ!!」
少女の怒りの声が廊下に響き渡った。
ソウマはその声がロザリアのものだとすぐに気がつき、驚く。
先程まで昏睡状態だったというのに、ソウマはロザリアの身を案じる。
ソウマ「ロザリア…、どうして…?」
意識が戻ったロザリアに嬉しいと思うと同時に叫んで大丈夫なのか、とソウマは不安に眉を下げた。
ロザリアは廊下を走り、強く足を踏み入れて跳躍した。天井に頭をぶつけないように気をつけながら跳んだロザリアは跳躍の勢いを殺さず、ソウマの手首を掴んでいる男の顔面に蹴りを食らわした。
生徒2「ぐえっ」
ロザリアの蹴りを食らった生徒は衝撃でソウマから手を放して、後方に吹っ飛んだ。
廊下の冷たい床に着地したロザリアは立とうとしたが、身体に力が入らず崩れ落ちた。咄嗟にロザリアの身体をソウマは抱き止める。
ソウマは腕の中のロザリアの顔色が悪いことに気がつき、ロザリアの名前を呼ぶ。
ソウマ「ロザリア…!」
ブラッディブレイドの度重なる使用に身体への負荷は深刻で…。真っ白な雪の上に落ちるロザリアの血を思い出してソウマは泣きそうになる。
ロザリアはへらりと力なく笑う。
ロザリア「ソウマ、ごめん…」
自分自身の情けなさを、ロザリアは笑って見せる。
ソウマはそんなことないと首を横に振った。
そんな二人のやり取りを無粋な連中は構わず、寧ろロザリアへの怒りを振りかざしてきた。
生徒3「おい!女、よくも!」
邪魔されたことと、仲間の一人を吹っ飛ばされ男は怒鳴ってロザリアとソウマに拳を向けてきた。
全く身勝手だ、とロザリアは思い迎撃しようと頭を回転させて考えた。
だがそれは不要だったらしい。
ロザリアとソウマに男の拳が届く前に白銀の紋章が障壁となって、男から二人を守った。男は障壁に弾かれて廊下に尻餅をついた。
生徒3「???」
突然現れた紋章の障壁に男は戸惑い、瞬きを繰り返した。
ソウマは白銀の光を纏う紋章を見てロザリアの魔法かとロザリアを見る。だが、ロザリアは苦笑した。
ロザリアが走ってきた廊下の奥から靴音が聞こえる。足音はこちらにどんどん近づき、足音の正体が姿を現す。
エルトレス「大丈夫?突然、走って行ったから驚いたよ~」
エルトレスはにこにこと笑い、ロザリアとソウマの傍に歩み寄り二人を守る障壁を指先で小突く。小突かれた障壁は白銀の光の粒子となって散り、エルトレスの身体に還った。
エルトレスは廊下に尻餅をついてる男を見る。
生徒4「て、てめえ…!」
尻餅をついてる男の仲間がエルトレスに向かって構えた。
エルトレスは構える男を見て小さく笑う。
エルトレス「ここ、治療センターですよねえ?ここで戦ったらいけないのではありませんか?」
エルトレスは男達に向かってウインクして見せた。男達はエルトレスの言葉に肩を揺らした。
ヴィルシーナ学園は治療センターでの生徒間の私闘は規則により、禁止されている。
だが、と男達は尚もエルトレスとロザリアに敵意を向けてきた。
エルトレスは己の唇に指先を押し当てて小首を傾げる。
先程からエルトレスは無知な少女のような振る舞いをしているのがソウマには引っ掛かったが疑問はすぐに解けた。
イシュ「…何をしている」
黒髪の青年が男達の背後に立っていた。
黒髪の青年イシュの後ろにはキリヤもいる。二人を目にしたロザリアはエルトレスを見るが、エルトレスはにこにこと笑っている。
キリヤ「治療センターでの私闘は禁じられている筈だが?」
イシュの後ろにいたキリヤが前に出てきて男達とロザリア達を交互に見る。
ロザリアはキリヤとイシュを見て嫌そうな表情を浮かべ、ソウマは不安に瞳を揺らす。
男達はこれは自分達に傾いたと判断してキリヤに訴えた。
生徒3「この女が急にアルホドを蹴り飛ばしたんです!」
尻餅をついてる男がソウマの腕に身体を支えられているロザリアを指差した。事実は事実だが、前振りが抜けている。
先にソウマに絡んできたのは奴らだ。…ロザリアは腹が立ったが、どうにか冷静を保ち男達の言葉を黙って聞いた。
キリヤ「…あそこに転がっているのはDクラスのアルホドか」
男に言われ、キリヤはロザリアに蹴飛ばされて後方に吹っ飛んだ者を見た。
キリヤがそちらを見ている間にイシュはキリヤの横を通りすぎ、ソウマとロザリアの目の前に来た。
ロザリアはイシュを一目見て、何かを感じとりイシュを見つめた。ソウマはロザリアの様子が変わったことに気づき狼狽えた。
だが、イシュの眼中にロザリアは無かったようで。イシュはじっ、とソウマの顔を見つめ柔らかい笑みを浮かべた。
イシュ「…名前は?」
しかも、声音が優しい。
イシュの柔らかな笑みと優しい声音に、近くで見ていたエルトレスが目を大きく開いた。
ロザリアも間抜けな表情になった。
…こんなキャラだっけ?ロザリアとエルトレスの心が一致し、戸惑った。
そんな二人を知らずにソウマは自分よりも身長が高いイシュを見上げて律儀に答える。
ソウマ「ソウマ…」
名前を教えられたイシュはソウマの長い銀の髪を手にし、優しい眼差しをした。
ソウマとイシュのやり取りを見ていたキリヤが明らかにソウマへ鋭い眼差しを向け、暗い表情を浮かべている。
ロザリアは今の状況を「何これ、何なの…」と小さく呟き、戸惑う。
イシュ「ソウマか。どうだ、ヴィルシーナに来ないか?」
ソウマに何を想ったか、イシュはソウマを引き抜こうとし始める。
ソウマは「え」と驚き、キリヤは「師匠?」とソウマと同じく驚いていた。
ロザリアはさすがにとイシュに向かって口撃をしかける。
ロザリア「ちょっと!そういうことは私を通してくれない?!」
私がソウマの主(保護者)なんだけど!とロザリアはイシュに向かって主張したが…。
イシュ「誰だ、お前」
イシュは首を傾げ、ロザリアは力がまた抜けてしまった。
生徒3「な、何がどうしてそうなったんだ?!」
ソウマに絡んでいた連中の一人が混乱して放った言葉にエルトレスとロザリアは同感した。
エルトレスはため息を大きく吐き、自分に向けられた視線に気づく。
先程、ソウマに向けられていたキリヤに鋭い視線が今度はエルトレスに向けられていた。エルトレスはひきつった笑みを浮かべ、キリヤになんと言おうか考えた。
…月の一族の王族。しかも、王剣は実際に王位にいなければ修得出来ない。クラウンの推測のおかげでエルトレスの正体は殆どバレている。
アステルナという名前だけは明かすわけにはいかないのだが、ここまでバレるのは覚悟していた。
だが、その後の対応についてはなるようになるかと後回しにしていたのだが。
エルトレス「あ!エルトレス、リーリエからお使い頼まれてました!行きましょう、二人とも」
無知でお気楽でバカな女。それがキリヤの嫌いな女性のタイプである。
それを知っていたエルトレスはそんな女性を装うって見せるが、悲しいかな。それはエルトレスの素でもある。
この場から去る。エルトレスはその為にロザリアの手を掴んだ。
ロザリアはすぐにエルトレスに合わせてくれた。
ロザリア「あ、そうだったわね」
ロザリアとエルトレスは顔を合わせて、笑う。
もうこの際ヴィルシーナ学園ともう一度、もめてもいいかとロザリアは思った。連中には好き勝手言わせてやろう。
今はこの場をソウマを連れて去りたい、とロザリアは思い始めた。
そんななんとも言えない雰囲気の中でロザリアの通信画面が勝手に空間表示した。
…?ロザリアは何かと画面を見れば、画面にメールのアイコンが表示されていた。ロザリアは画面のメールのアイコンを指先で押したら、画面に内容が表示され…。
ロザリア「…!!」
自分に届いたメールの内容を読んだロザリアは目を大きく開き、驚いていた。そして、ロザリアは走り出した。
ソウマ「ロザリア?!」
まだ身体が辛そうなロザリアが顔色を変えて走り出した事にソウマは驚き、ロザリアの名前を呼ぶもロザリアは足を止めない。
すぐにロザリアの姿は見えなくなった。
ロザリアに届いたメールの内容を横から覗いて見たエルトレスは目を閉じて心の中で呟く。
エルトレス(あの子達の想いが届いたんだね…)
記憶の中で微笑む少女と涙を流す少女を思い出した。エルトレスはソウマの肩に手を置く。ソウマは首を傾げてエルトレスを見た。
エルトレスはニコッとお気楽な笑顔を浮かべる。
だが、ソウマの肩に置いたエルトレスの手はイシュの手によって払いのけられた。
イシュ「………」
イシュは冷たい視線をエルトレスに向けたが、エルトレスは気にせず表情を崩さなかった。
第四十四話に続きます