第44話 彼の答えと結末

男は壊れた巨大な装置を見つめていた。

娘を失い、ここで娘を取り戻そうとした男は、娘を取り戻すことは出来なかった。けれど、本当に何も取り戻せなかったわけでは無い。


マツ博士「…ありがとう」


男は、マツ博士は地下研究所に来た銀の少女に感謝した。

少女…、ルナはかつて訪れ二人のフリージアに出逢った場所に再び来てマツ博士と対面した。

…ロザリアのもとに届いたメールはヴェルヴェリア経由でマツ博士が送ったもの。マツ博士がフリージアと友であるルナとの対話を望んだ。


ルナ「マツ博士」


ルナは友の父親を真っ直ぐに見つめる。

男はもう家族を失った狂気にとり憑かれていない。穏やかな眼差しをし、フリージアの父親としてこの場に立っていた。

ここは、ローゼ村周辺の山にある洞窟の地下。太陽帝国が見つけられなかった場所、フリージアとナイが初めて会った場所でもある。

マツ博士はフリージアの消滅後にここに帰ってきていた。


マツ博士「…私は妻と娘を失った哀しみに耐えられなかった」


あの時、大きな光がマツ博士の住んでいた村を呑み込んだ。仕事の関係で遠方に行っていたマツ博士は、建物の中で窓から見た光とやがて届いた知らせで絶望を感じる。

そんなことはない、とマツ博士は無我夢中で村に還った。

だが、村はすでに跡形も無かった。

家があった場所に行けば、粉々になった家屋。瓦礫に妻と娘がいるかもしれないとマツ博士は瓦礫をどかして…。そして見つけたのは愛娘の一部だった。

…マツ博士が見つけられたのはそれだけ。

ロザリアから大方の事は聞いていたが、マツ博士の口から詳細を聞くべきだと思ったルナはマツ博士に聞く。


ルナ「あの日、何があったのですか?」


ルナに聞かれたマツ博士は目を閉じる。

…あの日のこと、それからのこと。マツ博士はフリージアの友に知ってほしいと己の中の真実を口にする。


マツ博士「…マーガレット小国付近の国境における光の正体、私は当初知らなかった」


知ったのは本当に最近だ。

マツ博士の言葉を聞き、ルナの護衛についてきたアレクスとアサギがルナの背後で険しい表情を浮かべた。

ロザリアはかつて光について「実験」だと口にした。


アサギ「太陽帝国の王の石による実験…」


アサギの口にした言葉にマツ博士は頷く。


マツ博士「そう、太陽石と使い手を兵器化する為の実験」


ヴィルシーナ学園の治療センターの中。エルトレスはルナのもとに行ったロザリアを回収した。あの身体で走ったロザリアはエルトレスに支えられ、自身の身体を休ませていた。

ソウマもエルトレスの横でロザリアの肩に触れている。

治療室の一つ。みかんが交渉で借りた部屋の中でエルトレスはロザリアのベッドのの上に横たえた。

ソウマはロザリアの手を握り、ロザリアが横になったベッドの脇に腰かける。


キリヤ「…エルトレス、お前はイオについてどこまで知っている」


エルトレスとソウマをここに連れてきたキリヤはエルトレスに問う。

太陽帝国第二皇子イオは禁断の聖女との戦いの後に倒れ、太陽帝国の王室護衛軍に連れていかれた。

しかし、イオについてはそれだけでは無い。


エルトレス「イオ皇子は帝国に強制帰還を強いられ、ヴィルシーナ学園との繋がりは絶えた。というとこですか?」


互いの繋がりを絶やしたのは太陽帝国とエルヴァンス家の双方。

エルトレスはキリヤを真っ直ぐに見つめた。エルトレスの眼差しは普段の穏やかさと呑気さを見せない。厳しい眼差し。

かつて王だったものとしての顔つきでエルトレスはキリヤに告げ、キリヤはエルトレスの金色の瞳を見る。


キリヤ「強制帰還はまだ正式な話しはどこにも漏らしていない。どこでそれを」


まだヴィルシーナ学園でもイオの帰還はエルヴァンス家の者しか知らない。

キリヤの疑問にエルトレスは苦笑した。


エルトレス「過去の情報と推測ですかねえ」

エルトレスの微妙な返答にソウマは首を傾げる。


ソウマ「エル、過去の情報って?」


ソウマの疑問にエルトレスは暫く黙った。

…言っていいのかなあ。

エルトレスは迷ったが、キリヤを見て決めた。


エルトレス「エルヴァンス家と太陽帝国はもともと水面下では戦っていたの」


エルトレスの言葉にキリヤは驚く。

そんな気配、微塵も感じたことは無かった。キリヤは何かの間違いだ、とエルトレスに言おうとした。

しかし、キリヤが言う前にエルトレスは真実を告げる。


エルトレス「太陽帝国は月の国を滅ぼした後にエーデルシュタイン保護条約を自国では撤回を宣言してます」


それはつまり、とキリヤは気づく。エルヴァンス家は当主シエルがエーデルシュタインを全面的に保護し、活動している。

当主シエルが保護しているエーデルシュタインの数を考えれば…。

エルトレスは水面下と言っていた。


キリヤ「まさか、太陽帝国は狙ってきて…」


キリヤの言葉を聞き、エルトレスは目を閉じる。

エーデルシュタインを狩れば大きな力が手に入るといわれ、昔からエーデルシュタインは狙われてきた。

かつてのエルトレスはエーデルシュタインの保護を世界に訴え、それに一番初めに賛同してくれたのが太陽帝国の皇帝だった。

その太陽帝国は千年戦争後、月の国の崩壊の後に条約の撤退を宣言し、エーデルシュタインを搾取していた。勿論、エーデルシュタイン保護条約を守る国々は非難声明をするも、太陽帝国はエーデルシュタイン搾取で千年戦争後の衰弱から力を取り戻し、他国を黙らせる強国に返り咲く。

そして、未だに太陽帝国はエーデルシュタインを狩ることを辞めていない。

会議室で当主シエルはカップの取っ手を握り、持ち上げる。

カップの中の紅茶がシエルを映して揺らめく。シエルは目を伏せて、委員長達に告げる。


シエル「…私はずっと、君達と手を取り合えたらと思っていたんだよ」


シエルにはエーデルシュタインの妻がいて、息子もいる。

搾取されて来たエーデルシュタインをアステルナ王が世界に保護を訴え、数千年の時の中でも条約は消えずに残っている。

そして、滅ぶその時まで月の国はエーデルシュタインの保護を体現して来た。言葉に出来ずとも、世界は本当に月の一族を慕っている者はいる。

シエルはずっと捜していた。彼らの末裔を…。

コウはシエルの言葉を聞いた後、みかんを見た。


コウ「…生憎、委員長の俺達の中に月の一族はいない。俺はヴィオラの血を受けた後天的な月の一族だ」


この場を決断し、話を進める権利は委員長達に無い。

委員長達はあくまで任務と運営に連なる管理が仕事で最終的な決断はみかんと月の一族の王室の血筋にある者がすることだ。

しかし、みかんはこの場では決断しないだろう、と踏んだコウは「どうする」とみかんに視線を送った。


みかん「本来ならロザリアに話を進めてもらうべきだろうけど、ロザリアはまだ安静が必要な状態だからねえ」


といいつも、みかんは自分の前の空間に画面を表示した。

画面に表示されたのは「呼び出し中」の文字。数回、呼び出しコールが画面から聞こえるも相手は出なかった。

太陽石と月光石は対の石。その時代に立つ太陽皇帝と月の王が持ち、互いを監視し制御するためのもの。

その小さな石の中に秘められた莫大なエネルギー。解放されれば、国すら吹き飛ばすことは容易い。

そう、世界にとって月の一族と太陽の一族は脅威的な存在だ。

マツ博士がルナ達に告げた言葉。マツ博士が家族を失った原因は太陽帝国による、太陽石と使い手を兵器化するための実験。

ルナはマツ博士に告げられた言葉に声を上げる。


ルナ「太陽石と使い手の兵器化…!太陽帝国は、世界を…?!」


ルナは自分の胸に手をあてた。首にさげたペンダント、月の石と対の太陽石。そして、太陽石の兵器化。

アレクスは鋭い眼差しをした。つまり、太陽帝国は世界征服を目論んでいるのは明白であろう。


アレクス「太陽帝国は古代兵器を2基所有してるとの情報もある。連中は本気だろうな」


…石は世界征服の為にある力じゃない。両の石は「願い」。

ルナはアレクスの言葉を聞き、拳を強く握り締める。彼と彼女の願いを世界征服に使わせるわけにはいかない。

そして、それこそが…。


ルナ「太陽帝国を止める。それが、最後の王である私の責務」


ルナは決意を示した。

それを聞いたマツ博士は目を細め、着ていた白衣のポケットに手を入れポケットの内からデータチップを取り出す。


マツ博士「そうか…」


フリージアの友である彼女もまた悲しい運命を背負っているのだとマツ博士は納得した。元々、渡すつもりではいたがルナの言葉を聞き尚更と確信したマツ博士はルナの手を取った。

握り締めたルナの拳を開き、マツ博士はルナの手にデータチップを置く。

これは?と首を傾げるルナにマツ博士は穏やかな笑みを浮かべる。


マツ博士「私の最後の開発だ。きっと役に立つと思う」


最後…、その不穏な言葉を聞いたルナはマツ博士の顔を見た。

彼は穏やかな眼差しの中に強い意志を持っており、その意志は狂気に呑まれたものでは無かった。



マツ博士「太陽帝国は魔界の欠片すら兵器として扱うべく、魔界の欠片の制御研究をしていた。だが、させない」


フリージアに応えられる選択だ、とマツ博士は笑う。

その決意が何なのか、解ったルナは金色の目から涙を流した。マツ博士はルナ達から離れる。


アレクス「マツ博士…、」


ルナの後ろにいたアレクスはルナを抱えた。



マツ博士「ここにはまだ娘達がいる。皆、連れていくよ…」


マツ博士は微笑み、いつの間にか手にしていたスイッチを押す。

下から爆発音がし、マツ博士の背後に火が上がった。

アレクスに横抱きされたルナはマツ博士を見た。マツ博士は声を出さず、唇を動かし最期の思いをルナ達に届けた。

そして、マツ博士は爆発と火に呑まれ、ルナ達はその場から離れる。

地下から地上に続く隠された道を走り、途中ルナは自分を抱えるアレクスの胸に顔を埋め、アレクスはアサギと洞窟の道を走って脱出する。

途中、レオの移動魔法が発動し三人は地上に戻ってきた。


レオ「皆、怪我は無い?」


洞窟の入り口があったすぐ近くにルナ達を移動魔法で呼び戻したレオが杖を握って三人を出迎える。レオの肩にはのーたんも乗っており、ルナの様子を見た。

アレクスの腕の中で、ルナは声を押し殺して泣いている。

その姿にのーたんは胸が締め付けられる苦しみを感じ、レオの肩から飛び立ちアレクスの頭に乗った。


のーたん「ルナ…」


計算された爆弾の配置。爆発は洞窟を崩壊させたが、周辺への被害は何も無かった。マツ博士は研究していた魔界の欠片の情報と娘の遺伝子を持った欠片達と共に、家族のもとへと旅立った。

マツ博士は最期に娘に応えられる選択を、と。

アレクスは哀しみに涙を流すルナを抱えて一先ず、ヴィルシーナ学園に戻ることにした。

みかんの通信を切ったエルトレスはキリヤを見た。キリヤは父親シエルが自分を思い、隠していたことをエルトレスによって知らされ、衝撃を受けていた。

太陽帝国は千年戦争後、自国のエーデルシュタイン保護を撤回。国力回復にエーデルシュタイン狩をしたのは歴史によって証明され、エルトレスの話しは事実だ。

だから、エルヴァンス家との水面下での争いは現実味がある。

エーデルシュタインを全面的に保護しているエルヴァンス家とエーデルシュタイン狩をしている太陽帝国では協力関係など、表面的で脆い。

キリヤは太陽帝国第二皇子イオとは学友だ。シエルはキリヤを気遣い黙っていたのだろう。


キリヤ「…エルトレス、カノン達を襲ったのはまさか太陽帝国軍なのか」


子供の頃、カノンとその母親はエーデルシュタインの村に住んでいた。

エルヴァンス家の保護を受けてたエーデルシュタイン達だったらしい。村はある夜に襲われ、カノンの母親は狩られ命を落とした。カノンの母親はキリヤの母親の妹。

シエルが知った時には全てが遅く、場所が場所なだけにシエルが手をなかなか出せず、エルヴァンス家の力が届いた時にはもう…。

唯一、カノンだけが生き残った。

カノンと母親、他のエーデルシュタインを襲った者達の痕跡は追えず、狩られたエーデルシュタイン達の瞳と心臓は結局所在が掴めなかった。


エルトレス「…それは、私よりもシエル様の方がご存知かと思いますよ」


エルヴァンス家の権力を使い、エーデルシュタイン狩を洗っていたのはシエルだ。メイドの頃、エルトレスはシエルのその姿をよく見ていた。


シエルは歌うように言葉を紡ぐ。


シエル「かの英雄アステルナ陛下がエーデルシュタインの人権を世界に訴え、彼は多くのエーデルシュタインを月の国に迎え入れた。当時の各国はエーデルシュタインを独占しようとしていると月の国を非難し、月の国もアステルナ陛下は国を危険に晒す大罪人だと彼を殺そうとまでした。

だが、アステルナ陛下は自国を守り抜き、迎え入れたエーデルシュタインも守った。そして、月の一族は滅ぶその時までアステルナ陛下の遺志を継いでエーデルシュタインを守り続ける」


シエルが紡いだものは月の一族の歴史。アステルナ陛下の遺志を継いでエーデルシュタインを守ってきた月の国。

それに、今も彼らの末裔はエーデルシュタインを守っている。

シエルはニクスを見た。


二クス「…………」


ニクスはエーデルシュタインと扱われるのが嫌いだ。だが、ニクスがエーデルシュタインなのは変えられない事実。千年戦争の時、ニクスはロザリオに助けられ守られてきた。

ニクスは過去を思い出し、いつものお調子者の表情を消し去り、不機嫌そうに眉を寄せる。

それを見ていたコウはため息を吐いた。


コウ「みかん、埒が明かない。いいな?」


コウはみかんに向かって言う。みかんは「仕方ないね」と通信画面を開く。

どうせ、エルトレスの意志もロザリアの意志も、コウは読んでいる。


コウ「最上位の発言権を得た。うちの王家に代わって言わせてもらうが、この交渉は時間の無駄だ。回答をする、手を組むことはありえない」


長いこと、ロザリアに付いてきた。ロザリアの真意は解っている。

太陽の一族を止めること、それは月の一族の役目だ。だが、それには両一族以外の犠牲はロザリアの望みではない。

本当ならロザリアはニクス達でさえも巻き込みたくは無い筈だ。


シエル「…ふふ、」


コウの宣言を聞いたシエルは笑う。

彼らの姿勢はシエルにとって好ましいものだ。ずっと、シエルが憧れていた彼の王の一族なだけはある。


シエル「…諦めることは出来ない。僕はずっと、君達の事を捜してきた」


シエルは目を閉じて、自分の過去を思い出す。幼い頃、他人の欲望の捌け口にされ、心を壊してしまえばいいとさえ思っていた。

何も感じず、ただ生きているだけだった。だが、月の一族の王の物語を手にしたエーデルシュタインの少女と出逢いでシエルは抗うことを決めた。

少女は月の一族がかつて保護していたエーデルシュタインの子孫で、親から代々伝わるアステルナ王の物語を見て憧れていたらしい。彼女から教えられたアステルナ王の物語にシエルもまた、勇気を貰った。

子供の頃、アステルナ陛下の軌跡を追うのを夢見、その血族が手の届くところにいる。


コウ「…月の一族が迫害されている今、俺達と手を組めばエルヴァンス家もヴィルシーナ学園も立場が危うくなる。それが解らない貴方ではないだろう」


夜を照らす月に祈ることすら許されない今の時代。太陽の一族が世界に強い発言力を持っている以上、月の一族は迫害されそれに味方するものに牙を向く。

コウはどう言われようとも頷くわけにはいかない。

シエルは頑ななコウに苦笑した。

そして、自由のきかないシエル自身の立場にも。


シエル「ああ、そうかそうだねえ。…ソーレ君」


シエルは何かを思いつき、名前を呼ぶ。ソーレという名前にコウは聞き覚えがあった。

確か、シエルの息子でキリヤとアーシェルの腹違いの兄の名前だと気づいたコウは、シエルの背後から現れた青年を見た。

白銀の美しい髪、ブラッディロードによく現れる深紅の瞳。

今まで気配すら感じなかった青年の登場にコウとイーグルの顔が強張った。

…ソーレ・エルヴァンス。十数年前、ヴィルシーナ学園の最上位クラスで生徒会長を務めていた人物だ。アタッカーとしての実力は申し分ない。


ソーレ「はい、父上」


シエルの護衛の役目と側近として背後に控えていたソーレはシエルの傍らに立つ。


シエル「ソーレ君には僕の代わりに彼らの手助けをしてもらう」


シエルの発言にコウは顔がひきつった。どうすれば諦めてくれるんだ、と頭を抱える。

ロザリアは白い花が咲く、花畑の中で立っていた。目の前に自分と同じ銀色の髪を持った少女がロザリアに背を向けてしゃがみこんでいた。

誰だろう?とロザリアの意識は思うも、口は勝手に少女の名前を呼ぶ。


ロザリア「ヒナ、本当に王になるの?」


口が勝手に紡いだ名前にロザリアの意識は納得した。

これは過去の記憶が見せている追憶の夢だ。

目の前の少女は千年戦争を終戦へと向かわせる為に命を燃やした、月の王の一人。


ヒナ「うん、戦争は無理矢理にでも終わらせる。そして、未来に」


…希望を託すの。少女は立ち上がり、振り返る。

ヒナの金色の瞳は強い光を持っていた。

ロザリアはヒナと向かい合い、彼女の意思に目を閉じる。

沢山の王達の死をロザリアは見送ってきた。ヒナは微笑み、ロザリアの頬を両手で包み込む。


ヒナ「信じて、ロザリア。また手を取り合える未来を」


貴女の愛した彼の皇帝はきっと、未来を切り開いてくれる。ヒナは優しい声音でロザリアに告げた。


ヒナ「未来に新たな二つの王が、きっと南大陸を守ってくれるわ」


ヒナの予言めいた言葉を聞き、ロザリアは彼の名前を呼んだ。


ロザリア「……ミトラス」


ロザリアは目を覚ました。

どうやら自分は眠っていたらしいと夢から覚めた微睡みの中で思う。意識が落ちる前に送り出したルナはちゃんとマツ博士に会って話が出来ただろうか…。

気になることは沢山あるがロザリアは先ず、上体を起こす。


ロザリア「…ソウマ?」


ロザリアは自分が眠っていたベッドの脇に突っ伏して眠るソウマに気がつく。冷たい床に膝をついているのを見てロザリアはソウマをちゃんと寝かせようとベッドから降りた。

ソウマの身体を抱えて、ロザリアはベッドの上にソウマを横たえる。

今度はそのベッドの脇にロザリアが腰をおろした。

もしかしたら、自分に着いていて寝ていなかったのかソウマは目を閉じてよく眠っている。

ソウマの顔にかかった彼の髪を指先ではらい、ロザリアはソウマの寝顔を見つめた。


ロザリア「守れなくて後悔するのはあの時だけに…、シルヴィ…」


意識の奥底で涙を流し続ける人に誓った。

…今度こそ止めてみせる。守り抜いてみせる。ロザリアは拳を強く握り締めた。

もう一度、あの笑顔に出逢う為に…。


最終話に続きます