●●
この世界オルビスウェルトの地上界において吸血鬼(ブラッディロード)は強い存在感を持っている。
美しい姿を持つ者を愛し、愛でていたい。
その強い魅了の力を持つ瞳で、時には強い力で吸血鬼(ブラッディロード)は美しい者を攫い、我が物とした。
●●
国際的トップアーティストと呼ばれるほど、絶大な人気を誇る桜華。
彼らの護衛任務を受け、現在近日に控えたコンサートのリハーサルの最中、会場に桜華のメンバーの一人、ソウマを狙う吸血鬼(ブラッディロード)は姿を現した。
自分の魔力を込めて動かす人形…マリオネットを引き連れ、吸血鬼(ブラッディロード)ノービリスはソウマの前に立ち、彼に手を差し伸べる。
ソウマはノービリスを睨みつけ、差し伸べられた手を乾いた音ともに払いのける。音ともに数秒の静寂が辺りに満ち、マリオネットの動きも止まった。
魔力を動力としてるなら、操作してるものの影響を少なからず受けるのか。コウは動きの止まったマリオネットを振り払い、アイスに目で合図を送る。
アイスは頷き双剣を構えてノービリスへと駆け出し、その背後を取る。
しかし、
「…ふふ、ふはは」
ノービリスは突然、笑い声を上げた。
喜びに満ちた声音でノービリスは堪らない、と言わんばかりに。声を上げて笑い、そしてブラッディブレイドの柄をその手に収める。
背後へと振り向き、下段から上段へと斬り上げる。
斬撃がアイスを襲う、その前にコウがアイスを抱えて後方へと跳ぶ。
そして、その背にソウマは隠し持っていた短剣を突き立てようと桜華のメンバーの制止を振り切って飛び出す。
短剣の刃が届く、その距離まで接近したがお見通しだと言わんばかりに、ノービリスはソウマの腕を掴む。
「…ソウマ!」
桜華のメンバーの一人、藍色の髪の青年が声を上げる。
ノービリスは桜華のメンバーに見せつけるようにソウマの顎を指ですくい、顔を近づける。
ソウマ「俺はお前の寵姫には、ならない」
ソウマはノービリスに片腕を掴まれ、拘束されても尚、ノービリスを睨みつける。
こんな吸血鬼(ブラッディロード)に血を奪われ、血を飲まされて寵姫にされる気は無い。
だが、ノービリスはその意志の強さが良いと不気味な笑みを浮かべる。
周囲の、依頼を受けた誰もがこの状況の危険さにノービリスをどうにかすべきだと動こうとするが動き出したマリオネットに阻まれる。
コウ「くっ…!」
拳でコウへと殴りかかってくるマリオネットをアイスを抱えながらもかわし、片腕でマリオネットの顔に裏拳を叩き込み、ソウマとノービリスを見る。
そんなに離れてはいないのに湧き出るかのようにマリオネットは倒しても倒しても纏わりついてくる、そのせいで近づけない。
コウは画面を見れば、タキが魔力通信を介して眉を顰めてこちらの戦況を見ている。
何か、うてる手はないか。
コウの使える広範囲、威力の強い魔法は月魔法。
ムーンライトレイが撃てれば、マリオネットに足止め食うこともないのだが。
●
ナイはソレール・アームズの杖を手にし空へと振り上げる。
白い光を放つ紋章が杖の先の宝石から浮かび上がり、ナイは魔法を放つ。
ナイ「光槍の一撃!シャイニング・スピア」
紋章の中心から一本の光の槍が放たれる。
光の槍はノービリスに向かって、凄まじい速さで真っ直ぐ飛ぶ。
ノービリスは嘲笑い、口の端をつりあげる。
赤い防御壁がノービリスとソウマの前に現れて、光の槍がノービリスを射抜くこと拒む。
ナイは杖を媒介にし、魔法の消失を抑え。
更に魔法の詠唱に入る。
ナイ「ブリザード・レイ!!」
青に発光する紋章を現出させ、紋章の中心か冷気を纏った氷の光線を撃つ。
光線はノービリスの防御壁に激突する。
…持って!
ナイはそう願いながら目を強く閉じて、二つの魔法の維持に集中する。
そのナイの周囲にマリオネットが近づき、ナイを攻撃しようとナイへと跳ぶ。
アイス「させない」
アイスの双剣の剣閃が煌めく。
ナイへ襲い掛かろうと跳んだマリオネットは一体も残らず、アイスの剣に首を飛ばされる。
双剣を手にしたアイスはコウの背後に立ち、ナイに襲いかかるマリオネットと戦う。
攻撃魔法の紋章を同時発動させるのはそれだけ使用魔力も跳ね上がる。
魔法の維持でぐんぐんと減る体内の魔力を感じながらナイは自分を信じる。
打ち砕け…!
ノービリスの防御を砕き、ソウマ達を救わねば。
ナイの願いと魔力に威力を増した、氷の光線と光の槍がノービリスの防御壁に亀裂を入れる。
ノービリスは目を見開き、ソウマの腕を掴んだ手を放し、ブラッディブレイドを現出させ再び握る。
防御壁を解き、自分に迫るナイの魔法をブラッディブレイドで斬り払う。
ナイの魔法は消失し、ナイは床に膝をつく。
忌々しい、と舌打ちしたノービリスだが湧き上がる激情から隙を見せる。それを見逃さなかったアサギがノービリスの懐に飛び込み、遠慮なしにノービリスの頬に拳を打ちつけた。
ノービリスはアサギに殴られ、数メートル飛ばされるがすぐに体勢を立て直す。
だが、ステージの中央にいる桜華とソウマの前にコウとアサギが立つ。
ナイはアイスに支えられてるが、意識が朦朧と床に膝をついている。
●
不愉快だ…。
ノービリスは先ほど、自分の防御を砕こうとした魔法使いを睨む。
水色の髪とアイスブルーの瞳の少女に支えられ、膝をついている少年。
同時に魔法を使って魔力切れで意識が混濁してるのだろう。
怪しげな笑みを浮かべ、目を三日月に細めたノービリスがブラッディブレイドを振るおうと僅かに動かす。
だが、それは予想外な乱入の、派手な登場に阻まれた。
●
コンサート会場の三階席の一部が大きな爆発音共に消し飛んだ。
壁と客席の一部が吹き飛び、煙とともに現れたのは人影。
銀髪の男。
男の登場にコウは「おせえよ」と安堵した。
現れたのは、学園屈指の近接担当(アタッカー)。ロザリオだ。
ロザリオ「すまん、遅くなった」
と、言ったが特に悪びれていない様子で、ロザリオは鞘にしまわれた刀を手にして三階席の客席から飛び降り、一階へと着地する。
マリオネットが着地と同時に襲撃してくるが、刀を持つ手とは逆の手に握っていた剣を振るって襲って来たマリオネットを一掃。
ロザリオはマリオネットを倒しつつも、ステージに近づく。
ノービリスは突然の乱入者を見、気がつく。
ロザリオの気配、それはノービリスも持ってるものだ。
(…同族か)
だが、人間の気配と混じっている。
…人間から変異した吸血鬼(ブラッディロード)か。
オルビスウェルトの世界の吸血鬼(ブラッディロード)には人間から変異して吸血鬼になった者と吸血鬼同士から産まれた者。
人間から成った吸血鬼を本来なら同族と呼ぶことすら烏滸がましいが…。
しかし、ロザリオの纏う気がそれをさせない。
●
ロザリオはステージに上がると手にしていた刀をアサギに投げ渡す。
アサギはそれをキャッチし、柄と鞘を掴んで刀身を引き抜く。銀の光を放つ刀身に、アサギは悪くは無い刀だと感じる。
アサギ「ロザリオ様、これは…?」
アサギが刀を手にしてロザリオを見れば、ロザリオは特にどういうこともない様に言う。
ロザリオ「ああ、それタキに調整させたソレール・アームズ。お前の身体能力に合わせて調整してるから、愛刀まではいかないがそれなりに使える筈だ」
ああ、そういうことか。
コウは納得し、画面を見やる。通信の向こうでタキが盛大にため息吐いてるのを見て「お疲れ」と通信を通して一言労わっておいた。
疲労感の塊のタキとは対照的にアサギは嬉しそうに刀とロザリオを交互に見ている。
アサギとコウの背後にいた桜華のメンバー、そしてソウマは突然現れたロザリオをじっと見ていた。特にソウマはロザリオに興味があるのか見つめている。
視線を気にする素振りも見せずに、ロザリオはノービリスと真正面から向き合い、睨み合っている。
ノービリスは手にしたブラッディブレイドの切っ先をロザリオに向ける。
「人間から成りあがった半端者が…!」
苛立ちを隠すことも無く、ノービリスはロザリオに敵対心をぶつけた。
距離が数メートル離れているとはいえ、上位の吸血鬼(ブラッディロード)の武器を向けれれて冷静な者は数少ないだろう。
ノービリスに苛立ちと憤りをぶつけられてもロザリオは精神を乱すことなく、ただノービリスの目を見た。
二人の吸血鬼(ブラッディロード)の睨み合いをステージから外れた場所から、アイスに支えられながらナイはぼやけた視界に映す。
相当な体力を消費をしたナイの身体は力が抜け、顔を上げることすら辛い。
ナイ「ロザ…」
掠れ、小さな声でロザリオの名をナイは呟く。
その声は勿論、ロザリオにもアイスにも届いたが残念なことにノービリスの耳にも拾われていた。
ノービリスはナイを視界に映し、目を細めて鋭い視線をナイに投げる。
そう、それは所謂殺気。
先ほどの同時発動魔法が余程、ノービリスには腹が立ったのか。
アサギはノービリスの視線の先の、限界まで消費したナイを見つけた。ロザリオから渡された刀を握り締め、腰に装着する。
ノービリスは己が血で創りだした一振りの剣。ブラッディブレイドの切っ先をロザリオからナイへと標的を変える。
残酷な、歪んだ笑みを浮かべてノービリスはブラッディブレイドを振り上げ、床に叩きつけるように振るう。
ノービリスのブラッディブレイドから赤い光が力の波となってナイとアイスの方へと一直線に発射される。
アサギ「ナイ様っ!!」
声を上げて、アサギはナイの方へと走り出す。
会場の四分の一は消し飛ばすであろう、ノービリスのブラッディブレイドの力が床を抉りながらナイとアイスへと進む。
ノービリスは笑う。
邪魔な存在を消し去り、己が望む者を手に入れる。そう、吸血鬼(ブラッディロード)の両親から生まれたノービリスには力があるのだ。
半端な存在には得られぬ、絶大な力が。
●
ノービリスの剣から放たれた赤い光がこちらを呑み込むべく進んでくる。それを瞳に映したナイは小さな声で自分を支えているアイスに声をかけた。
ナイ「アイス、行って」
…僕を置いて、逃げて。
ナイがそう言ってアイスを見れば、彼女は首を横に振る。
…それは最善では無い、アイスはそう言った。
アイス「私の役目はナイを守ること」
動けないナイを放り出し、全速力で走りだせば。アイスの脚力なら逃げ延びられる。
だが、アイスはそれは違うのだとナイの身体を支えて迫りくる赤い光に挑むように、真剣な眼差しでノービリスの力を捉える。
赤い光が身動きの取れない二人のすぐ前へと迫る。
●
赤い光の波がナイとアイスを呑み込む前に。
二人と赤い光の間に、ロザリオとアサギが割って入る。
ロザリオは自分の人差し指の爪を親指の肉に刺す。赤い小さな玉が親指から出る。
指から出た僅かな血を宙に払い、ロザリオの前に一振りの真紅の剣が血によって創られ現れる。
柄を手に収めたロザリオは薙ぎ払う動作をし、すぐに床に足を踏み込んで真紅の剣を上から下へと振り下ろす。
赤い光は剣圧に吹き飛ばされ、消失した。
ロザリオのブラッディブレイドに、ノービリスのブラッディブレイドの力がかき消された。
アサギが光景に驚き、隣に立つロザリオを見れば無表情でノービリスを見ている。
そして、ノービリスは舌打ちをしロザリオを睨んでいた。
●
ロザリオは剣を構えたまま、アサギの名を呼ぶ。
呼ばれたアサギはロザリオのすぐ傍で彼の声を聴く。
ロザリオ「アサギ、俺が奴のブラッディブレイドを防ぐ。攻撃はお前に任せる」
アサギ「ロザリオ様?」
ロザリオの話にアサギは聞き返した。
ノービリスのブラッディブレイドに対抗できるロザリオが防御専門に回るなど。
…何か、あるのですか?
アサギは眉尻を下げ、困惑した表情でロザリオの横顔を見つめればロザリオは「俺のブラッディブレイドを攻撃に転換するわけにはいかない」と消え入りそうな声で言う。
攻撃に転換出来ない。ロザリオの言葉にアサギはますます、疑問を持つ。
ロザリオは「こいつは本来、最後の奥の手だからな」それだけ言って前を向き、ノービリスに向かって駆け出す。
アサギは困惑しつつもロザリオの後を追って駆け出した。
●
…半端者め!
ノービリスはブラッディブレイドで宙を薙ぎ払う、そこから再び赤い光の波が放たれる。
しかし、それもまたロザリオのブラッディブレイドの剣圧にかき消されて消滅する。
走りながらノービリスの攻撃を弾くロザリオのすぐ後ろを走り、アサギは腰に装着した刀の柄と鞘を掴む。
ノービリスは迫る二人から逃れようと足を踏み込み、加速しようとしたが。
コウに阻まれる。
ノービリスはとうとう、先ほどまでの余裕に満ちた表情を消し去る。焦燥し、判断を鈍らせたノービリスは目の前のコウを攻撃しようとブラッディブレイドを下段からの斬り上げをしようとしたが。
どこからか放たれた、魔力が武器を持つ手に当たりノービリスは僅かに動きを止めた。
誰が、とノービリスが魔力を放った者を捜す。
こちらへと走ってくるロザリオとアサギの後ろ、先ほど消耗し膝をついていたナイがノービリスに向かって手を突き出してるのが見えた。
…おのれっ!
顔を顰め、ナイを睨むも追いついたアサギの刀に下から逆刃で手を殴られ、ブラッディブレイドは弾き飛ばされる。
持ち主から離れたブラッディブレイドは宙に舞って消失し、ノービリスはすぐに次のブラッディブレイドを創ろうとするも。
アサギはすぐに刃を返し、ノービリスに向かって上から刀を振り下ろした。
目を見開き、ノービリスは己が鮮血が舞う中でアサギを見る。
夕暮れを宿した髪と瞳、整った美しい顔立ち。
…欲しい。ノービリスはそう思った。
真っ直ぐ、自分へ立ち向かう。この強く美しい者が絶望に染まり、自分に服従する様が見たい。
その為には、退かねば。
どの道、肩から胸部、腹まで斬られている。この出血で深追いするのは危険だ。
ノービリスは妖しく笑い、アサギの腕を掴む。
そしてアサギのを自分の方へと引き寄せ、己が血で濡れた唇をアサギの唇と重ね。
「お前とソウマが欲しい」
唇を離し、ノービリスは甘く笑うと自分の血を浴びたアサギの頬を一撫でして、移動魔法でその場から消え去った。
●
退かせたか…、とコウが安堵する中。ロザリオはアサギの顎を無遠慮に掴んだ。
困惑するアサギをよそにロザリオは、
ロザリオ「飲んだのか?奴の血」
そう言ってアサギの顔を真剣な表情で見下ろす。
アサギはロザリオの言わんとしてることを大体、察し。「す、少し飲みました」と素直に言えばすぐに身を清めろ、とアサギに帰還を促す。
…吸血鬼(ブラッディロード)との血のやり取りは危険だ。
ロザリオはため息を吐いて、慌ててアサギが会場から出て行くのを見送ったあと、消耗して気を失ってるナイとそれを抱え、床に座るアイスの前に膝をつく。
ロザリオ「すまない、アイス。ナイは俺が引き受ける」
ロザリオが言って、両腕を差し出せばアイスが力の抜けたナイをロザリオの腕の中に渡してきた。
…ナイの消耗はアイスにも影響が出る。
平気そうに振る舞っているがアイスも辛いのだろう。身体が左右に揺れている。
アイスが先に帰還すると、おぼつかない足取りで会場の出口へと向かうのを見届ける。外にはリーリエとヴィオラを呼んでいるから大丈夫だろう。
それと、委員長のコウは後始末に回っているらしい。
そこら中に動力切れを起こして倒れている無数のマリオネットと所々、破壊された会場の惨状に他校と協力して後始末するのだろう。
ナイを抱えたロザリオが自分も帰るかと、出口へ向かおうとした。
だが、目の前にソウマが現れて一旦、その場に足を止める。
ソウマ「…君も吸血鬼(ブラッディロード)?」
まあ、半端者だけどな。ロザリオはソウマに頷く。
数秒ソウマはロザリオの瞳をじっと見て来た。…まずい、とロザリオは目を逸らす。
…吸血鬼の目には魅了の力がある。
普段、そういったことに無関心なだけにロザリオは失念していた。
ソウマはロザリオとの距離を縮めてくる。
ソウマ「君には、ノービリス以上の力を感じる」
距離を縮められ、ロザリオは思わず後ずさる。
ソウマは首を傾げ、ロザリオへと一気に距離を縮めて顔を近づける。
…何なんだ、一体。
正直、ソウマの顔は吸血鬼が惹かれるものだ。
あまり近づかれるとさすがに困る、とロザリオはどう切り抜けようか考えていればソウマはロザリオの耳に顔を近づけて囁いてきた。
…君の寵姫にならなりたい。
ロザリオは目を見開く。何を言ってるんだ、このアイドル。
会ってまだ数時間しか経っていないのに、寵姫になりたいなど何を考えてるんだ。
ロザリオ「悪いが、寵姫とか吸血鬼の世界に興味なくてな」
…他を当たってくれ。
ロザリオはソウマの横を通り、出口へ行く。
そう、寵姫にも吸血鬼にも興味はない。ロザリオには果たさねばならない約束がある。
●
ロザリオとソウマのやり取りを遠目から見ていたコウは心中、複雑なものだった。
いい加減、生きることに前向きになってくれればいいのに。
相変わらず、だとコウはやはりため息をつく。
●
ロザリオはなるべく、人通りの少ない道を選んで歩く。
腕の中のナイが僅かに肩を動かし、起きたのか、とロザリオはナイを見る。
自分と同じ銀の髪がロザリオの視界に映る。
ナイは顔を俯かせ、小さな声で「ありがとう」と言ってきた。いつもより、ずっと高い声で。
ロザリオは首を横に振る。
ロザリオ「気にするな。それよりも帰ったら休め」
ナイに言えば、ナイの頭部が僅かに揺れた。
了承した、と受け取ったロザリオは歩を進める。
弱弱しい声で「アサギさん、大丈夫…?」と聞いてきたのでロザリオはどうだろうな、と前置きした。
ロザリオ「素質が無ければ、変異することも無い。ただの寵姫にされる第一段階を踏んだだけだ」
今の状態でもノービリスから居場所探られるだろうが、あの深手なら当分はノービリスも動けないだろう。
ロザリオの言葉にナイは「ん、解った」と呟く。
その後にナイは「ロザリオって恋人いたことある?」と聞いてきたのでロザリオは、一度咳払いをし。
ロザリオ「まあ、昔な」
正直に答えれば、ナイは「アサギさんが吸血鬼に、」と言いづらそうにしていた。
…ああ、あの時の。
ノービリスが去り際にアサギに自分の血を飲ませるためにキスしたことか。ロザリオはナイの言いたい事を察する。
それがどうした、とナイに聞けば「凄く、嫌だった」と返ってきた。
…そうか、とロザリオは相槌をうつ。
ナイは「この気持ち、何ていうのかな」と独り言のように呟く。
ロザリオは目を閉じる。
…さあな、もう忘れた。
それは遠いあの頃に捨てた感情だと言えば、ナイは「そっか、でも悪くはないよ」と返ってくる。
●
一行の借りる宿泊施設で、ヴィオラは血まみれのアサギの服を剥いで、浴槽に叩き込んでやった。
意外に筋肉ついてるのねえ、と言ったら顔を真っ赤にしたアサギに悲鳴を上げられたが、そんなに元気なら大丈夫かな、とアサギの泊まる部屋の中で待っていた。
浴室からシャワーの水音が聞こえてくる。
先ほど、画面にコウからメッセージが届き。夜には帰ると書いてあった。
ロザリオからはアイスとアサギの様子について書いてあったので、アイスは寝てる、アサギは風呂と送ってやった。
アイスはナイが元気になれば元に戻るだろうが、アサギは現状では何とも言えない。
このまま何事もなく、ノービリスを倒せればそれでいいのだが。
ヴィオラ画面を開き、仲間とのメッセージのやり取りをロザリオがナイを抱えて戻ってくるまで続けた。
●●
第六話に続きます