第6話 出逢い(前編)

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ノービリスとの一件後、ナイとアサギはクラス委員長のコウから休養を言い渡された。

魔力の消耗が激しい、ナイは宿泊施設の一室で寝込んでいるのだと聞かされたアサギはナイが起きたら見舞いに行こう、と思い自分は休養を利用して愛刀の修理を頼みに。

コウに「身体から異変を感じたらすぐに言う事」を条件に出歩く了承を貰った。

今、アサギの身体にはノービリスの血が混じっている。

ロザリオ曰く、寵姫にされる第一段階。もしこの状態で自分の血をノービリスに渡せばアサギは高い確率で奴の寵姫にされる。

寵姫とは吸血鬼の愛人みたいなものらしい。

吸血鬼とともに生き、愛でられるだけの存在。

…そして、もう一つ危惧しなければならない事がある。

吸血鬼の血を体内に入れることでアサギの身体の遺伝子が変異し、アサギ自体が吸血鬼になる可能性。

確率自体は極めて低いのだが、ロザリオ自身がその例なのだ。

そこでアサギは一つの疑問を持った。


アサギ(それまでに低いのにロザリオさんとロザリアさんは人からの吸血鬼…)


それともロザリアが完全な吸血鬼でその派生でロザリオが…という可能性もある。

ノービリスの発言から聴くに「半端者」とはロザリオに向けられた言葉。なら、ロザリオは人からの吸血鬼になった者として間違いは無い。

またアサギは疑問を持つ。

ロザリオとロザリア、この二人の関係だ。

未だに二人揃っているのを見たことがない。

アサギは唸り、首を傾げる。

アカツバキのロビーでアサギは愛刀の修理先を電子系通信で探していたところ、背後から無感情な声に名前を呼ばれた。 


アイス「アサギ」


呼ばれてアサギが振り返れば、アイスブルーの髪と瞳の少女がいた。

ノービリスたの戦いでナイを守っていた少女アイス。彼女は後ろに誰かを連れているがアイスでよく見えない。

アサギは「おはようございます、アイスさん」と先ず、挨拶した。それに会釈したアイスはアサギの顔を凝視し、背後の人物に何か話す。

アイスの後ろにいる人物は縮こまってるのか、アサギからは見えない。


アイス「ロザリアが休みだからデートしてこいって」


それだけ言ったアイスは背後の人物の腕を掴み、自分の前に引っ張りだした。

高く、澄んだ声で「ひゃああ」と悲鳴を上げたのはロザリアと同じ銀髪の少女。長い銀の髪の一部を頭部の後ろに大きなリボンで纏め、あとは腰に届くまで普通に流している。

制服もアサギとアイスと共通のものを着用しており、アイスのスカートは短めだが彼女のスカートは膝まである長さだ。

瞳の色は金。これもロザリアと似た色をしている。

だが、ロザリアよりも清楚で穏やかな雰囲気だ。本人が聞いたら怒りそうだが、アサギは少女を見てそう思った。

…あれ?でもアイス様、今デートって言いました?

アサギは数十秒、アイスの放った言葉を脳内で繰り返し再生した。

ロザリアが休みだからデートしてこい。

アイスはそう言っていた。



アサギ「あの、アイス様デートとは…」


アサギがアイスを見れば、アイスは親指立てた拳をアサギに突き出し。相も変わらず、崩さない表情で。


アイス「ロザリアが、行ってこいって」


ええー、とアサギは困り果てた。

デートと言われても自分には愛刀の修理という目的があるわけで。

困惑しているアサギの表情に気づいたのか、銀髪の少女が顔を赤に染めて口を開いた。


「あ、あの、ロザリアがアサギさんの用事に同行して色々見てこいって言ってまして…」


アサギさん、少女にそう言われた時にアサギの頭の中でナイの姿が過ぎった。

あれ…?

アサギは何でだ、と疑問に思う。何故、自分はナイの事を考えたのか。

学園に編入してきて、ナイと初の任務についてから。

妙に自分はナイを気にしている気がする。

アサギはついつい考えこんでいると少女が、


「アサギさん、時間大丈夫ですか?」


言い。アサギは気がつく。

そうだ、まだ任務がある以上日帰りだ。ノービリスは吸血鬼だから回復が早い。

傷さえ治れば再度、ソウマへの襲撃が予想される。それに、アサギ本人も狙われている。

のんびりはしていられない、とアサギは銀の髪の少女を連れて愛刀の修理を急ぐことにした。


アサギ「あの、お名前は…?」

宿泊施設の出入り口の前で立ち止まったアサギは少女に聞けば少女は頬を赤らめて、小さな笑みを浮かべる。


「ルル、といいます」


アイスはアサギとルルの後ろ姿を見送る。

二人が並んで、ロビーの外へと繋がる出入り口の透明な自動ドアから外へと出て行くのを視界に入れ、アイスは目を閉じる。

記憶を失った自分はどうも心の動きが鈍い。

過去、目を覚ましたアイスの身体は傷だらけで、記憶が抜け落ち。何故、こんなに怪我をしているか解らなかった。

真っ白な病室。自分の隣のベッドに寝かせられている幼い子供を見た時。

…ああ、この子が主なのか。

それはアイスの中で当然のように生まれた役目だった。

痛みに軋む身体で上体を起こし、アイスは転げ落ちるようにベッドから下りる。

身体を起こし、子供が眠るベッドに近づく。

床に膝をつき、アイスは子供の手を取り。込み上げてくるものが何か解らず、頭を下げた。

床には自分の目から零れ落ちたものが小さな池を作っている。

…何も覚えてないのに。

抜け殻の自分に残った、たった一つのもの。

この小さな子供の命がアイスに残された、唯一つの…。

脳裏に再生された、あの日。

思い出し、アイスは閉じていた瞼を上げる。

…役目はあの日から何も変わってない。

アイスは己の役目の為、しっかり前を向いて歩みを進める。


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一方、ロザリアはアイスからの「二人が行った」という通信を受け取り、アイスに「護衛、任せた」とメッセージを送ったあとコンサート会場に来ていた。

国を挙げての修復のおかげでノービリスの件で破壊された会場はほぼ、襲撃前の姿に戻りつつある。

ロザリアはリハーサルに来て、スタッフと打ち合わせしている桜華。その桜華の一人であるソウマを三階席から見ていた。

他の学園の生徒も警護に来ている。ちらほらと見慣れぬ制服の者達が会場に散らばっているのが窺えた。

アサギに斬られ、ノービリスはかなりの深手を負っていた。あの傷では二日は動けないだろう。

本来なら二日はソウマを護衛せずともいいのだろうが、どうにもロザリアにはなにか思うところがあった。

僅かに見える、ソウマの背中から光翼が。

うっすらと、零れる光の粒子と翼。恐らく、天上の民の証だろう。

しかし、天上は魔界と同じく閉鎖的でよほどの事でもなければそちらの者が来ることは無い。昔、地上の人と恋に落ちた吸血鬼(ブラッディロード)が魔界を捨てこちらへ来た伝説のように。

だが、魔界はかなり地上への行き来が緩いのに対して天上は厳しいと聞く。

天上の情報を外界に漏らさない、それが重要なのだと。

ロザリアは画面(パネル)を開く。

桜華のプロフィール。タキに情報を取ってもらった。

しかし、プロフィールに書かれたのは簡単なもので。

…んー、やっぱ顔は好みだわあ。

ソウマのプロフィールに載せられた顔写真を見たロザリアは気を緩めた。

上位の吸血鬼すら魅了してしまう。清廉で美しい、天上の民。

その美しさに満足しながらもロザリアは頭の片隅で。

危険だとも思った。

うっかり、ソウマの顔写真に気を緩めたロザリアは背後から近づく気配を感じ取るのが遅れた。

三階席に通じる関係者用通路から来たであろう人物はロザリアの背後に音もたてずに近づき、ロザリアの銀の髪に触れる。

急に髪を触られたロザリアは勢いよく振り返った。

…殺気じゃないから気づかなかった!

間抜けである。

振り返れば、画面に映っている顔写真の本人がいた。

ロザリアは驚き目を開けば、ソウマ本人も驚き。そして盛大なため息を吐いた。


ソウマ「彼じゃないのか…」


その一言でロザリアは理解した。

ソウマはロザリオと自分を間違えたのだろう。

後ろ姿はそっくりだとクラスメイトからも言われる。

同じ銀の長い髪。学園の制服も似たような構造のもを着ている。

体格と身長以外なら後ろ姿は同じようなものだ。

ロザリアは素直に謝る。


ロザリア「ごめん、私にそっくりな男の方と間違えたんだね。よく間違えられるの」


ソウマ「いや、こちらこそ申し訳ない。初対面の貴女の髪を触ったりして…」


逆に謝られ、ロザリアは「いいの、いいの」と笑顔とともに手を上下に煽る。

だが、本人を前にし平気な素振りを見せながらも。

…あ、これはまずいわー。

予想以上にソウマの魅了がロザリアに効いている。

半端な吸血鬼だが一応、ロザリアにも魅了の力はある。しかし、それ以上にソウマの魅了の力が掛かっているのを感じ、とっととこの場から去ろうと思う。

徐々に身体が動かなくなり始めてるのを感じたロザリアは足を僅かに動かす。


ソウマ「君と彼は兄妹なのか?」


ソウマから質問が飛んできた。

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アサギとルルは港街ツバキから東大陸専用の小型移動船に乗り、ツバキからスメラギ国領内へと行くことにした。

小型移動船に乗る際、それなりの申請を局に出さなければいけないのだが発着場に着いたアサギが何かのバッジを係員に見せればすぐに小型移動船に搭乗出来た。

船内は運転席、搭乗客席、動力室の三つのみ。基本、移動船の搭乗時間は短い。

大陸内の近場を高速で移動しているので船内の備えは実にシンプルである。

移動魔法が主のルルには小型移動船は初めての経験だ。

ルルは色々と興味が沸くが客は自分以外にもいるので大人しく座ることにした。

だが、アサギの隣もどうにも申し訳ないので空席に余裕があれば別の席に…と思ったがそうもいかない。

客用の席は二席ずつ区切られている。

ルルはアサギの隣の席に座った。

…アサギに何か異変があればすぐにロザリに。

朝、出発する前にコウに言われた事をルルは思い出す。

ノービリスの返り血を浴び、更にその血を飲んだアサギが吸血鬼(ブラッディロード)に成る可能性がある以上、日帰りといえど一人旅は危険だ。

それに深手を負っていてもノービリスが何か仕掛けてこないとも限らない。

ルルはアサギの横顔を視界の端で見る。

中性的な顔の造形。長い睫毛に薄いが花びらの色をした唇。

ルルは改めてアサギを綺麗だと思う。

ノービリスが気に入るのも解る気がした。


アサギ「ルル様?お顔が赤いのですが、大丈夫ですか?」


自分の思考に浸かっていたルルは不意にアサギに声をかけられ、慌てた。


「ふえ?!ら、らいじょうぶです!」


言葉の途中、噛んで上手く舌が回らず間抜けな声を出してしまった。

恥ずかしくなりルルは更に顔を赤く染め、顔を俯かせる。

…これではアホの子だと思われてしまう、と少し絶望を感じた。

目的地到着のアナウンスが流れたの聞き、アサギはルルを促して小型移動船から外へと出た。

…スメラギ国領内、国主ひざ元の街アオバ。

アサギにとっては故郷でもある。

だが、一切の油断も出来ない場所だ。この地に足を踏み入れ、それが父の大勢の妻達に知られれば刺客がすぐに寄越されるだろう。

本当は誰かを同行させるつもりはなかった。

この国は自分の首を狙ってくる輩が多い。アサギはロザリオから渡された刀の鞘を握り締めた。

アサギのすぐ後ろで歩くルルは緊張感の無い声を上げて街とその奥の、国主が住まう城を見ていた。


「あれがお城ですか?アサギさん」


城の城壁、黒の瓦、城の上には金の飾り。

南大陸での王宮と呼ばれる建物とは違う、東大陸の城の造りにルルは嬉しそうに笑う。

アサギは頷き。


アサギ「あれが国主の住まう城です」


返答すれば、ルルは画面を開き興奮して、


「中見たいですが無理ですねえ。あ、でもアオイ国には見学用の城あるんですね!帰ったら行きませんか?」


と一気に喋り。ルルは「あ」と自分の言葉を脳内で思い出し、顔を赤く染めた。

勢い余って、まだ知り合ったばかりのアサギにデートのお誘いをしたのだ。

しかも今は任務の事もある。

ルルは自己嫌悪した。

これではアホの子ではないかと。

ここにクラスメイトがいたら「アホの子」呼ばわりされてたであろう。

ルルは顔を赤くしながらも涙目になる。

その様子に大体、察したアサギは控えめに微笑む。


アサギ「帰ったら、一緒に行ってくれますか?ルル様」


ルルはアサギの優しさに自分の情けなさと嬉しさを同時に感じた。

全力で頷いたルルは「是非!」とアサギに向かって笑う。

ルル本人は自分がどんな顔をしてるか解らないが、アサギはほんのり頬を赤に染めてた。

アサギの様子に気づくこともなく、ルルはアサギが刀を持っているのを見て不思議に思った。ツバキにいた時は腰に装着はしていたが手に持ってはいなかった。

まるですぐに抜刀出来るように、と。


「アサギさん、刀…どうかしましたか?」


ちょっと色々はしょった言葉になってしまったがアサギには十分、通じていたようだ。


アサギ「ルル様、そのことで少しお話しがありますので人気のない場所に…」


今、アサギとルルがいるのはアオバの街中。様々な店が建ち並び、観光客などで賑わっている。

ルルは特に疑問も持たず、アサギについて歩く。

人込みを避けて、アサギとルルは人気のない路地裏に来た。

アサギはその間も刀を持っており、更に警戒してるのか気を張っているように見て取れた。

路地裏でルルはアサギの言葉を待つ。

アサギは少し間をあけたあと、口を開く。 


アサギ「ルル様はどこまで私の出自をご存知ですか?」


え、あの…東大陸の国のお偉いさんのご子息ということしか聞いてません

…他の皆はどうかは解らないが。

だが、ルルが聞いているのは東大陸の、とある国の、お偉いさんの息子。色々とわけ有りで生家も古く由緒ある。

そういうところしか聞いてない、コウもそれぐらいしか聞かされていないと言っていたのを思い出す。

ルルはそのままアサギにそれを伝えるとアサギは黙って何かを考え始めた。

数分、沈黙が続いた後アサギは口を開く。 


アサギ

 

私はスメラギ国出身でして、この国の内部に深く関わっている家の者なのです

アサギは言葉を続ける。


アサギ「その、父には妻が多く、跡取り問題で私は父の妻達から命を狙われていまして…」


この国に足を踏み入れた、そうなれば何時どこで襲撃を受けるか解らない。

手段を選ばない彼女達のことだ。

アサギの話を聞いたルルは素直に故郷に帰れないのは悲しい事だと思った。

ルルにも故郷があった。だが、そこはもう素直には帰れない。

何時かは帰りたい、と思っているがその為にはあの国と戦わねばならないのだ。


「アサギさん、私も多少は戦えますので心配しないで下さい」


少なくともナイよりは魔力の保有量も多い、攻撃魔法もそれなりに使える。

…足手まといにはなりたくない。

特に今のアサギは常に気を張っている状態だ。これ以上、負担をかけたくない。

ルルは思い、アサギを見る。


アサギ「…解りました。用を済ませ、すぐツバキに帰還しましょう」


アサギの目的は愛刀の修理。

愛刀を造った人物はスメラギ国の刀職人で気難しい人物らしい。

直接、出向き依頼せねば修理しない…と職人の家に向かいながらルルはアサギからそう聞いた。

活気づく商業区から離れ、入り組んだ細い路地裏の道を通りアサギとルルは古い一軒の家の前に出た。

アサギが「ここが職人の家です」と紹介してくれ、ルルは南大陸の家とは違う作りの家をまじまじと見た。

アサギは慣れた様子で職人の家の玄関の扉を叩く。

中から、老齢の男性の声が聞こえてきた。


アサギ「お久しぶりです、先生。アサギです」


玄関の扉越しに伝えれば、中から入ってこいと言われアサギは「失礼します」と中に入って行った。

ルルはそこまで立ち入るのもどうかと思い、外で待つことにした。

画面を開き、ルルは文字をうつ。

…アイス、来てる?

メッセージを送ればすぐに返信が来た。短く、彼女らしい言葉で。

来てる、の三文字。

そこにタキからのメッセージが届いた。

…いないと思ったら、アサギの用について行ってたのか。休まなくて平気?

結局、皆甘いし優しいのだとルルは思いつつもタキに返事を送る。

…ルナだから大丈夫。

本当は今回のアサギへの同行はロザリオから却下されていた。

だが、アイスの護衛をつけるということとアサギに自分のことを隠すという条件で何とか許可を貰えた。

…強制では無いけど。

ルルが明かしたいと思えば、別にロザリオは咎めないだろう。

だが、ルルは明かす気は無い。それは皆の命を危険にさらすことでアサギの立場や命も危険にする。

アサギを巻き込みたくない。

それがルルの意志だ。

職人の家に入ったアサギは見慣れた彼の家に安堵を感じる。

昔から父に連れられてよくここを訪れていた。

幼い頃、女性の真似事をさせられてる傍らで励んだ剣の修行。自分の剣の腕を認められ、彼に刀を造って貰った時とても嬉しかったのをアサギは今でも鮮明に覚えている。

スメラギ国でも有名な刀職人で、父のお抱えだが気難しいがゆえに城に住まず人気のない場所に家を構えている。


「珍しいですな、アサギ様。アイゼン殿から南大陸へ行かれたと伺っていましたが」


白髪の老人は一人掛けの椅子に座る。

玄関を開ければ、修理用の簡単な工房。その奥が大きな工房である。

アサギと老人は修理用の工房にいる。二人の周りには様々な器具と道具が転がっていた。

腰に装着していた刀を外し、アサギは老人に渡した。

老人は渡された刀の柄と鞘を持ち、刀身を引き抜けば酷い刃こぼれをしていた。

刀身を一瞥した老人はアサギを見れば、「すみません」とアサギは消え入りそうな声で謝罪してきた。


「随分と酷い有様で。一体、何と戦ったんですかい?」


アサギ「…魔界の欠片と交戦した際に瘴気で」


「そんなやわに造った覚えはないのですがねえ…」


老人は魔界の欠片に対応できるようにと、瘴気に耐性のある鉱物を使用したのだが。

職人として一流の物を、と思って打ったのだが。


アサギ「いえ、通常の魔界の欠片とは違いました」


アサギの言葉に老人は「今、騒がれてる異常体ですか」と聞けばアサギは頷く。


「よく生きておられましたな。ここ最近、確認されたものは多数の戦士に死傷者が出たと聞いてますが…」


アサギ「私の力だけなら無理でしたが、強力な魔法の使い手がお二人いまして」


あの時、ナイのムーンリフレクションの反射壁を内側にして欠片を閉じ込めたことでロザリアの放ったヴァイス・ムーンドライブがリフレクション内で欠片を消滅まで追い込んだ。

とどめはナイのうっかりだったが。

老人は暫く考え、アサギから渡された刀を見た。

そして、アサギが手にしてる刀を目にする。

それはロザリオから渡され、アサギ用にタキが調整したものだった。


「アサギ様、その刀は?」


老人に言われ、アサギは手にしていた刀を渡す。

受け取り、老人は鞘を持ちもう片方の手で柄を握って引き抜く。

銀の光を放つ刀身が現れ、老人はじっくりと見つめた。


アサギ「クラスメイトが私用に、と愛刀が修理されるまでの間、使うよう調整をかけてくれまして…」


アサギの言葉に老人は息を吐いた。

ここまでの調整をかけるとは…、と老人は関心した。

恐らく、相当な知識を持っているのだろう。ソレール・アームズの調整はかなり技量が試される。

それに南大陸には刀を扱える職人は少ないと聞く。

 

「是非、ここまで調整をかけた方にお会いしたいものです」


隠れた優秀な才能の持ち主なのだろう。老人は久方ぶりの歓喜を感じ、椅子から立ち上がる。


「良い仕事を見せてもらいました。アサギ様、修理と改良を私なりに施しますので治った際には届けさせますので、改めてご連絡しますな」


アサギ「…は、はい!」


アサギは修理を快諾され、嬉しそうに返事をした。

老人も職人魂に火がついたのかいそいそと奥の工房へと向かった。それを見送り、アサギは頭を下げて玄関の扉を開けて外に出る。

待っていたルルがアサギの方へと振り返り、笑顔で出迎えてくれた。


「おかえりなさい、アサギさん」


どうでしたか?とルルに聞かれアサギは「快諾してもらえました」と答えれば、ルルは我が事のように喜んでくれた。

通信画面を開き、アサギは近況を報告することにした。

『修理を快諾して頂きましたので、これからルル様と帰還します』

メッセージがを送れば、画面にはすぐにクラスメイトからの返答が来た。

コウから『お疲れ』と労わりのメッセージが届く。

『あら、デート楽しかった?』

ヴィオラからのメッセージにアサギは否定しようと文字をうとうとしたが、

すぐ近くから感じた殺気で通信画面を閉じ、刀を構えた。

ルルもすぐに携帯用の折り畳み式のソレール・アームズの杖を懐から取り出した。

その杖はナイが使用している物と酷似しており、アサギは疑問に思うもそれどころではなくなった。

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一方。

ソウマの質問にロザリアは数十秒、答えに詰まった。


ロザリア「…まあ、兄妹みたいなものかな?」


ようやっと出た言葉にソウマは「へえ」と納得していない様子を見せた。

…な、何かしら。このアイドル

ロザリアは額に滲む汗を感じ、久方ぶりの焦りを自分は感じているのだと理解する。

正直、あまりロザリオとのことは突っ込まれたくないのだが。

ソウマは余程、ロザリオが気になるらしい。


ソウマ「少し、確かめたいのだが」


ソウマは首を傾げ、ロザリアと向かい合い。


ソウマ「君を抱き締めても良いか?」


ソウマの素っ頓狂な発言にロザリアは思わず、「はええ?!」と間抜けな声を上げた。

…た、確かめる?

いやいや、無理だ!魅了効いてるし!とロザリアが無言で首を横に振る。


ロザリア「お、お断りだわ!何でそんなこと…」


ソウマ「君と彼の気の質が似ているから。大丈夫、俺は女人に恋愛感情は持たない」


…今、凄い事言ったわね!?

そして何も大丈夫では無いとロザリアは叫びそうになった。

女に恋愛感情持たないという発言でショックを受けている自分と距離を近づけてくるソウマに驚き、ロザリアはけれども魅了が効いてる身体が動かなくなってるのをどうにか動かそうと「うおおおお」と根性で身体を動かし。

半泣きになりながらその場を走って逃げ去った。

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第七話に続きます